アシカの離乳


アシカの餌付け
 天王寺動物園では、雄1頭、雌6頭の合計7頭のカリフォルニアアシカを飼育しており、毎年順調に繁殖しています。2008年にも3頭の子供が誕生しました。今回は、3頭の子供たちの離乳についてお話したいと思います。
 3頭の出生日、性別、出生時の体重はそれぞれ次のとおりです。
  • マリー(2008年6月25日、雌、10.8kg)
  • ハリー(2008年7月 1日、雄、 9.9kg)
  • ボビー(2008年7月 2日、雄、10.8kg)
 子供たちは生まれてから9~10カ月は母親の母乳だけで育っていきます。池の水を抜いて掃除をする時に子供を捕まえて体重測定を行っています。2009年4月以降、順調に増えていた体重がある時期を境に減ってきます。それが離乳の合図です。順調に成長していた子供たちの最高体重は、マリー32.4kg(2009年4月2日)、ハリー47.3kg(2009年4月24日)、ボビー43.4kg(2009年5月19日)でした。

グラフ
 野生では、親の食べる様子を子どもたちなりに観察し、親を真似て魚を捕まえて離乳していきますが、動物園では生きた魚を与えず、死んだ魚(冷凍のアジ)を与えていますし、食べ残しが出るとプールの水質が悪くなりますので余るほど与えていません。そのような理由から、子供たちが離乳するための餌の確保ができないので、そのまま親といっしょに飼育していても自然に離乳することはありません。そこで、体重が減り始めると子供たちをアシカ舎から遠く離れた隔離室に移して、強制的に離乳を行います。
 離乳がうまくできるかは、子供たちが餌を口に入れ、のどを通してくれるかどうかにかかっています。あの手この手を使い、できるだけ子供たちにストレスを与えないように行いますが、中には手のかかる子供がいます。

さて今回の子供たちの離乳経過は・・・・・
 マリーは、2009年4月24日に隔離室に移し、離乳を開始しました。移動した当日に生きた金魚を与えました。与えると同時に金魚を追いかけ食べてしまったので、小さい冷凍アジを与えると次の日から食べ始めました。ほんとに手のかからない良い子でした。
マリーの体重測定(2009年5月4日撮影
マリーの体重測定(2009年5月4日撮影
 次にハリーです。5月8日マリーと同じプールで離乳を始めました。動物は非常に学習能力に優れていますので、マリーの食べる様子を見てハリーが学習してくれればと思い同居させて始めましたが、マリーが優先権を主張し、ハリーに餌を食べさせませんでした。噛みついたりするわけではありませんが、給餌間にはハリーが餌を取ろうとすると、追っかけまわして食べさせませんでしたので、そこでマリーを他の場所に移し本格的な離乳を開始しました。1頭だけにして、まず金魚から始め、小さい冷凍アジと徐々に進め、マリー同様、数日で離乳を完了しました。
ハリー(2009年6月3日撮影)
ハリー(2009年6月3日撮影)
 次にボビーです。もうお分かりだと思いますが、離乳を完了するまで1カ月半かかりました。金魚は殺すだけ、小さい鯉も殺すだけ、小さい冷凍アジは噛み砕くだけと、まったくのどを通してくれませんでした。このようになると残る方法は強制給餌だけとなります。言葉のとおり、人間(飼育員)の手によって、強制的に咽の奥まで餌を入れ、食べることを教える方法です。無理やり押えつける作業ですので、体重が30kg前後までダイエットを行い、押えつけやすくしてから行いました。カリフォルニアアシカは英名がシー・ライオン(海のライオン)と呼ばれるほど鋭い歯を持ち、また首は360度回ることから、捕獲や保定(ほてい)をおこなうときは慎重な作業が要求されます。口を大きく開けさせ、餌を咽の奥まで手で押し込み、胃の中に入れてくれるのを待ちます。1匹ずつ、慎重に20匹ぐらい与えました。そして、繰り返すこと合計3回、ようやく自分で食べてくれるようになりました。
アシカの強制給餌
アシカの強制給餌
 苦労して育てた子供たちが、他の動物園で繁殖してくれることを祈るばかりです。

(岡田 博之)