知恵者、エランドのナナ


 あまり知られていないかもしれませんが、アフリカサバンナゾーン草食動物エリアの大放飼場にはキリン、シマウマ、ダチョウ以外にエランドという動物も展示されています。遠目にこれを見たお客さんの中には「シカや。」とか「ヤギ?」とか言う人もいますが、実際はレイヨウの仲間で、シカやヤギよりはるかに大きな体をしていて、改めて近くで見て、たいていの人は驚きます。そんなに大きな動物なのにあまり目立たないのは、あの広い大放飼場の中で1頭しか展示されていないからでしょう。この1頭しかいないエランドは、雌で名前をナナといいます。ナナは昔からとても穏やかな性格でしたが、最近では老齢のためかさらにおとなしく、のんびりと暮らすようになってきました。とても長くて立派な角を持っていますが、これを飼育係に向けることは滅多にありません。
エランドのナナ
エランドのナナ
 ナナは毎朝、寝室から大放飼場に出る時、一人で出るのを嫌がるため、飼育係が一緒にサブパドックを歩いて連れていきます。この時、サブパドックの脇においしそうな雑草が生えていると、こちらの顔を見て「食べていい?」とでもいうような顔をします。こっちが待ってあげると、おいしそうにそれを食べ、気が済むとまた歩き出します。こっちが忙しい日でもおかまいなし、あくまでのんびりペースです。
 大放飼場では、北端にある大池の横の一角がお気に入りの場所で、午前中はだいたいそこで座ってすごします。
定位置に座るナナ
定位置に座るナナ

 ナナはシマウマ達が苦手で、その場所はシマウマ達があまり来ない場所だからです。(たまにシマウマがやって来るとしかたなしに移動します。)そして私が大池のほとりに棲むアフリカハゲコウに餌を与えに行くと、「私にも何かちょーだい」という顔でじーっと見つめてきます。仕方なくその辺の雑草を少し刈って与えると、嬉しそうにそれを食べます。
グラントシマウマのヒデヨシ
グラントシマウマのヒデヨシ

 昼からは、大放飼場のあちこちに木の枝や牧草を撒いて、動物達の食事の様子をお客さんに見てもらう、「おやつタイム」というのを行います。この時はキリンやシマウマは活発に動きまわりますが、ナナは時々、頭を使って要領よく餌にありつきます。ナナはシマウマが苦手で、餌の取り合いにも負けてしまいますが、シマウマはキリンの雄、ケニヤには敵いません。ナナはそのことを知っているようで、時々ケニヤの横で餌を食べているのです。ケニヤは食いしん坊ですが、のんきな性格なので自分の邪魔さえしなければ、追い払うことはあまりしないのです。こうしてシマウマに邪魔されることなく、餌にありつくことができるというわけです。

キリンのケニヤ
キリンのケニヤ
 仲間がおらず、寂しい生活ですが、今日もナナは飼育係やキリンを味方につけ、たくましく暮らしています。

(油家 謙二)