治療には設備が必要ですが...

治療には設備が必要ですが...

 動物園の中には、けがや病気の動物を治療するための動物病院があります。この動物病院には、人間の病院にあるのと同じような設備がそろっています。レントゲン装置、血液分析器、超音波診断装置、麻酔器、内視鏡、心電計などなど。どれも治療や検査に欠かせない大切な機器です。動物専用につくられたものもあれば、人用のものをそのまま使う場合もあります。動物専用のものでも、犬猫用や牛馬用に設計されているものがほとんどです。動物園ではゾウやペンギンやヘビなど多種多様な動物を飼育していますから、機器によっては使える動物の種類が限定されたり、種ごとに特別な調整が必要なものもあります。また、ほとんどの動物は簡単には動物病院に連れてくることができないため、できるだけ往診のときに持って行ける機器をそろえるようにしています。しかし、レントゲン装置などはポータブルのものでも重さが何十キロもあります。かさ張るものも多いため、いざ治療や検査に向かうとなると、様々な機器を満載した車両で向かうこともよくあります。
 医療機器は技術革新のスピードが速く、どんどん新しく便利なものが開発されています。より小型で、より迅速に、安全に、正確に診断を下せるものが、様々な分野で毎年のように作り出されています。たとえば、レントゲンも最近ではデジタルです。人間の病院で普及しているのでご存知の方も多いと思いますが、デジカメと同じように撮影した画像をパソコンの画面で見ることができ、一部分を拡大したり色の濃淡を修正したりすることができるので、今まで以上に正確に診断することができます。産婦人科でお馴染みの超音波診断装置も、ノートパソコンほどの大きさでカラー表示できるものや、立体画像として見ることができるものもあり、詳しい情報を診断に役立てることができるようになっています。他にもすばらしい機器がたくさんありますが、問題はどれも非常に高価だということです。安価な必需品でも簡単には手に入れられない今のご時世において、医療のためといってもなかなか手が届くものではありません。
 実は、今動物病院で使っている設備の多くは、かなり昔に導入されたもので、老朽化が進んでいます。中には、いつ故障するかわからないという状態のものもあります。つい先日、超低音冷凍庫が動かなくなってしまいました。15年以上前から使っているもので、そろそろ危ないという話をしていたところでした。この冷凍庫はマイナス80度まで冷やすことができるもので、検査に使う血液や死んでしまった動物の組織などを保存するために使っていました。世界的にも貴重な動物の組織が保存されている、タイムカプセルのような役割も担っている設備だったのです。ごく普通の冷凍庫は、だいたいマイナス20度までしか冷やすことができません。マイナス20度では、細胞は凍っていますが壊れていきます。はやく修理する必要があるのですが、新品に手が届くかもしれないほど修理費がかかるということで、今のところいつ修理に出せるのかめどが立っていません。皆さんがこれを読まれるころには直っていて欲しいものです。
 次は、レントゲンの現像装置が危ないとみています。今まで何度も修理しながら使ってきましたが、古いものなので修理部品がもうないようです。この装置が故障したらレントゲンが使えなくなりますから、骨折の治療すらできなくなります。最新の設備で最先端の医療を行いたいという気持ちは当然ありますが、それ以前に、故障しているものや故障しそうなものをどうするかが目の前にある頭の痛い問題です。貴重な野生動物を飼育しているわけですから、せめて何とか今のレベルを維持していかなければならないと考えています。
  今回は、少し暗い話題でした・・・。

(高見 一利)