小野木康雄さん
 僕は大阪市内の工場がひしめく一帯で生まれました。生まれてすぐは工場の上で暮らしていましたが、そのうち工場から徒歩5分ほどの団地へ引っ越しました。 その辺りには草木も土さえもほとんどなく、動物はおろか、生き物らしい生き物も、ほとんどいませんでした。それなのに僕は図鑑やテレビで知った動物たち(昆虫や恐竜や怪獣を含む)のことが大好きで、動物の名前もかなりマニアックに覚えていたし、薄い紙を図鑑の上に載せて形をなぞったり、コンクリートの隙間からほんのわずかに生える雑草をかきわけて虫を探したり、あげくの果てにはゴミの日にゴミ袋の下に集まる虫を見て喜んでいたりしました。
 そんな幼児でしたから、両親は休みになると天王寺動物園や自然史博物館へ連れて行ってくれました。奈良の自然公園などにもよく行きました。そういうところの草むらでバッタや蛙を見つけたら、それはもう僕にとっては宝物です。彼等は僕にとって、いつまでも眺めていたい素敵な存在でした。そして何より好きだったのは動物を描くことでした。動物の形を描くことも好きでしたし、この動物にはこういう花と虫が合うなとか、こういう景色にはこの動物が合うなというのを何時間も夢想しては描いて楽しむのです。
 僕は現在、画家として動物を描いていますが、動物たちに対する思いは変わりません。今も珍しい動物を見ると「宝物だ!」と思います。僕が個展のタイトルにTREASURE(宝物)とつけているのもそういう理由からです。どの動物にも必ず一つは素敵なところがあって、時には動物の魅力を引き出す為に、その部分を誇張して描きます。これは絵画にしか出来ないことです。
 そして絵の中には人も描きます。人も動物も同じ美しい景色の中で、互いを脅かすことなく居られれば良いなと心から願っているのです。
(さとう じゅん)