ウンチは宝の山!?

動物ごとにいろいろなウンチの違いがあります。
動物ごとにいろいろなウンチの違いがあります。体が大きければウンチも大きい、というわけでもありません。左上がキリン、その下がライオン、右上がゾウ、右下がコアラのウンチです。

 みなさんはウンチと聞くと、「汚い」とか「臭い」というイメージを持つでしょう。ほぼ100%ウンチにいい印象を抱く人はいないと思います。ところがこのウンチ、我々獣医師にとっては非常に重要な情報を与えてくれる「宝の山」なのです。
 まず、第一にウンチは動物の体調を知ることのできる指標となります。量、回数、色、臭い、形状などなど、動物の体調を示すポイントがいくつもあります。普段は飼育員さんが毎日の世話の中で、主に量、形状などを観察してくれます。固まりではなく水のようになっていれば、当然下痢をしているということになります。エサをよく食べていたのにウンチの量も回数も少ない、あるいは全く出ていないという時には、最悪の場合腸閉塞(ちょうへいそく)などの命に関わる病気の可能性もあります。また、妙に黒っぽいとか、表面が赤い時は胃や腸からの出血を疑います。ウンチの状態を観察することで様々な情報を得ることができ、動物たちの健康管理に非常に役に立ちます。
 他にも、検査することで見た目ではわからないことを知ることもできます。例えば病気という観点からだと、寄生虫の検査などがあります。寄生虫の多くは動物の胃や腸の中に寄生して、ウンチの中にはその寄生虫の卵やその虫そのものなどが混ざっています。寄生虫はウンチを介して他の動物に感染してしまったり、動物のお腹の中で増えすぎて動物の体調不良の原因となったりします。この寄生虫の検査は新しく入園してきた動物の検疫の時や、お腹の具合が良くない動物がいた時、あるいは年に何回か定期的に行ないます。このような検査をすることで、病気の治療や予防ができるのです。
 最近では、このウンチに含まれる繁殖に関係のあるホルモンの量を調べることで、その動物の繁殖リズムなどを知ることができるようになってきました。動物園で独自に調べられたらいいのですが、分析用の機械や人手の確保などいろいろ難しい点もあり、共同研究という形で大学の研究室にお願いしています。ホルモンは普通血液の中を流れて、繁殖期になると増えるとか、妊娠すると増えるとか、ある一定のパターンを示します。このホルモンはある程度ウンチの中にも出てきて、血液中で多くなるような時期にはウンチの中の量も増えてきます。ホルモンの量を調べて繁殖のリズムを知れば、どのタイミングでオスとメスを同居させるか、あるいはどのタイミングで人工授精すればいいかなどを推測することもできます。残念ながら現時点では研究段階で完全に実用化に至っていませんが、これまでにも様々なことがわかってきており繁殖の時に大いに参考になっています。
 嫌われることの方が多いウンチですが、このように私たちには重要な情報の詰まった宝物であることがわかっていただけたでしょうか?みなさんもこれでウンチが宝の山に見えてきたのではないでしょうか。

(佐野 祐介)