今年の6月24日にみんなが待ちに待った雄1頭、雌1頭の南方系コアラが入園しました。待ちに待ったというのは、実は去年の7月に入園する予定だったからです。オーストラリアは世界一検疫が厳しい国の一つで、コアラの国外への移動についても厳しい検疫を実施します。去年は検疫中に雄のコアラに病気が見つかり、代わりのコアラがいなくて中止になりました。
一年待ってやっと2頭のコアラが天王寺動物園に来ることになったのです。雄のコアラはオーストラリアでの名前はBurke(バーク)、2006年12月15日メルボルン動物園生まれの1歳半で、雌のコアラはEmber(エンバー)、2005年11月12日ヒールズビル動物園生まれの2歳7カ月です。コアラだけでは心配なので、メルボルン動物園のベテラン飼育員で今回のコアラの雄のバークを生まれたときから飼育されていて、雌のエンバーを1年前の検疫時から飼育されているChandi
de Alwis(チャンディ・ デ・アルウィス)さんも同行してくださいました。雌のエンバーは去年に来る予定になっていたコアラで、ヒールズビル動物園から去年の検疫時にメルボルン動物園に来ていました。2頭は、2008年6月23日、現地時間の午前10時30分頃にオーストラリアのメルボルン動物園を出発しメルボルン空港に向かいました。出国の手続きを済ませ、午後3時発の飛行機でオーストラリアを飛び立ちました。大阪へは直行便はなく、途中マレーシアのクアラルンプールで乗換手続きをして、6月24日の午前7時15分に関西国際空港に無事到着しました。
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輸送箱
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アークが入っていた輸送箱。輸送中に揺れても安定するようしっかりと組んだ止まり木
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当日は関西国際空港まで迎えに行きました。午前7時前に空港に到着し、2頭のコアラに会えるのを首を長くして待っていましたが、手続きに時間がかかり、コアラに会えたのは午前9時16分と飛行機の到着後2時間も経ってからでした。関空での検疫が終了するまでの間、小さい部屋に入れられていました。コアラは一生をユーカリの木の上で暮らしているので、ユーカリが周りにないととても不安になります。輸送箱の中にもコアラと一緒にユーカリの枝葉がいっぱい入っていました。輸入の際の検疫では動物検疫としてコアラの検疫と、植物検疫としてユーカリの検疫もします。ユーカリはコアラの餌(えさ)なので、農薬を使っていません。農薬を使っていない植物には当然のことながら虫がついています。そして、虫がついていると植物検疫に通らなく、輸送箱の中のユーカリは廃棄処分になりました。空港の検疫官はコアラの扱いに慣れていないので、午前11時過ぎにチャンディさんと私で輸送箱の中のユーカリを箱から取り出して廃棄することになりました。また、日本のユーカリをすぐに食べなかった場合に備えて、餌用のユーカリをコアラとは別に数箱輸入していたのですが、それも虫がついているために廃棄処分になってしまいました。ユーカリの廃棄の手続きがやっと終わり、午後0時43分にやっと部屋から運び出しトラックに積み込むことができました。そして、午後1時過ぎに関西国際空港を出発し、天王寺動物園に到着したのが午後2時過ぎでした。
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アークとお母さんのリリー
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チャンディさんからいただいたアークの赤ちゃんの時の秘蔵写真
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メルボルン動物園を出発してから27時間余りの移動でした。雄のバークは部屋に入れて輸送箱の扉を開けてあげるとすぐに箱から出てきてゴニオカリックス、ヴィミナリス、カマルドレンシス、ロバスターというユーカリをバクバクと食べてくれました。しかし、雌のエンバーは箱から出てこようとせずに箱の中の止まり木で固まっていました。ヴィミナリスやゴニオカリックスを口元に持っていくと少し食べてくれたので、チャンディさんの意見も聞いて、無理に箱から出さずに自分で出てくるのを待つことにし、箱の扉を開けたままにして帰りました。翌日の朝様子を見に行くと、箱から出て止まり木に上がっていました。天王寺動物園では24時間ビデオ録画をしてコアラの行動を観察しているので、ビデオを確認すると午後9時31分に自分で箱から出て止まり木に上っていました。
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チャンディさんとアーク
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チャンディさんはアークが大好き、記念にパチリ
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コアラはとても神経質な動物なので、無事に天王寺動物園に到着したからといって、安心はできません。移動に体力を使いますし、ストレスもかかります。体調が悪くなると自分で食べなくなりますし、ユーカリの好みにもうるさく、日本のユーカリを食べてくれるかどうか心配です。幸いにも雄のバークは次の日から栽培地のユーカリをしっかり食べてくれました。雌のエンバーは最初は少し食べてくれましたが、やがて食べなくなってしまいました。コアラは水分もユーカリから摂るので、ユーカリを食べないと脱水を起こして死んでしまいます。何とか食べさせるために、ハンドフィーディング(手渡しでユーカリの葉を与えること)を始めました。体重を維持するためにある程度以上のユーカリを食べさせる必要がありますが、どんなユーカリでも口元に持っていけば食べるという訳ではないので、エンバーが食べるユーカリを探すのに一苦労です。嫌いなユーカリは口元に持っていっても、プイッと横を向いて食べません。大きな鼻でユーカリの匂いをかいで、食べたいユーカリにだけ反応します。食べたそうな反応をしても、一口食べるまでに時間がかかったり、2口3口食べたら食べるのをやめてしまったりと思うように食べてくれません。また、コアラは体調が悪いときにはものすごく偏食するため、通常与えているユーカリを全く食べなくなったり、通常食べる新芽の部分を全く食べずに硬い葉や枝の皮を食べたりします。そのため、普段は餌として使わない種類のユーカリを園内のあちこちから切ってきたり、栽培地にもいろんな無理をいって大木化したラディアータ、サイペロカーパ、オブリカ、ハエマストーマ、ルビダ等を採取してもらいました。それも、切り倒してしまったら無駄な枝がでてしまうので、15メートルを超える木に登って4本ずつ出荷してもらったりしました。また、南港にもユーカリの圃場(ほじょう)があり、毎週採取に行っています。また、朝バクバク食べたユーカリを昼には見向きもしなくなったり、新芽を食べ始めたと思ったら、また硬い葉を食べたりと苦労が絶えません。
3カ月以上経った今も、自力で栽培地のユーカリを十分に食べてくれないので、今後も予断を許さない状態が続きますが、一日でも早くエンバーが元気になって、天王寺動物園でコアラの赤ちゃんを見て頂けるようにスタッフ一同頑張っていきますので、皆さんも応援してください。
(西岡 真)
*サポーターの方からバークとエンバーの天王寺動物園での名前を募集して、バークはアークに、エンバーはスピカに決まりました。アークとスピカの由来は牛飼座のアークトゥルスと乙女座のスピカからで、夫婦星といわれています。夫婦仲良く子宝に恵まれるようにと名づけられました
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