
お昼の作業前には毎日ゾウたちに特製団子を与えます。これはゾウ専用のビタミン剤を団子に混ぜて与えるのが目的で、同時に見習いである私と尾曽さんがゾウに慣れる練習にもなっています。
ある暑い日のことです。いつもは昼過ぎになると運動場の出入り口で団子を待っている春子。しかしこの日は姿が見えません。団子を持った尾曽さんが呼んでも出入口に来る気配がないのです。皆で運動場に入って見ると、春子は運動場の日除けの下で立っていました。よほど暑さがこたえるのでしょう。ゾウの運動場には日陰がなく、私たち担当者が手作りで作った日除けを春子は利用しているのです。いつもは団子を見せて呼ぶとすぐに取りに来る春子ですが、尾曽さんが呼んでも動きません。でもすぐにその理由がわかりました。やがて日除けの下で少しだけ向きを変えて口を開ける春子。暑くて日陰から出たくない春子が「ここまで持ってきて」と尾曽さんに言っているのです。思わず一同ずっこけそうになりました。日陰の下で尾曽さんに団子をもらって満足そうな春子。いつも春子のわがままには振り回されますが、時には思わず笑ってしまうこともあるのです。
(西村 慶太)
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