キーウィといえば、果物のキーウィフルーツを連想される方がほとんどではないでしょうか。しかし本家本元のキーウィはニュージーランドに住む鳥を指しています。キーウィフルーツは百年程前に原産地の中国からニュージーランドへ持ち込まれ、品種改良に成功して世界各地に輸出されるに及んで、国の象徴ともいえるキーウィをブランド名に拝借した次第。ちなみにキーウィの名前のいわれはその鳴き声から付けられています。甲高い声でキーーィと数km四方にも届く声量で、夜に鳴きます。

鳴声をあげるキーウィ
鳴声をあげるキーウィ

 そのキーウィが1970年に大阪での万国博覧会を記念し、ニュージーランド政府から天王寺動物園に贈られて来て38年が経ちました。当時の個体はすでに亡くなっていますが、その後3度にわたり贈呈を受け、キーウィを飼育しているのは日本で唯一ということもあって、天王寺動物園のシンボルマークにも使っています。キーウィの体の仕組みや生態は鳥とは思えない奇妙な点が多く、それを七不思議としてお伝えするとともに、キーウィと飼育員の間で想像を絶する合唱会があったことをご紹介しましょう。
 さて、七不思議の第一は、翼が退化していること。キーウィと同様、飛べない鳥の代表格であるダチョウやヒクイドリ、日本の沖縄で近年発見されたヤンバルクイナなどは飛ぶ能力を失っていますが、彼らには飛べないなりにも立派な翼があります。ところがキーウィの翼はまさに痕跡(こんせき)的、わずか2cm程の突起物があり、この先端には爪状のものが1つ付いているだけ。とても翼と呼べる代物ではありません。これでは鳥の一番の特徴である飛ぶことはとてもできません。
 第二は、昼間は寝てばかりで、夜に主に活動する夜行性動物であること。鳥類はフクロウなどわずかな鳥を除けば、暗くなると視力が落ちるために活動できなくなりますが、キーウィは数少ない夜行性の鳥なのです。
 第三は、ほとんどの鳥はにおいをかぐ嗅覚(きゅうかく)が劣っているのですが、キーウィはすばらしい嗅覚(きゅうかく)の持ち主です。実際にキーウィの脳を調べたことがあるのですが、視覚に関係する組織はあまり発達しておらず、嗅覚に関係する組織はよく発達していたのを覚えています。さらに第四は外鼻孔、鼻の穴の位置です。通常、鳥の外鼻孔はくちばしの付け根に左右に一対ついているものですが、キーウィの場合は細長い嘴(くちばし)の先端にあります。この嘴(くちばし)を地面に差し込み、主食となるミミズなどを探し当てるのです。

嘴の先端に外鼻孔がある
嘴の先端に外鼻孔がある

 五番目として、驚くのは卵の大きさです。絶対的な大きさではこの地球上に現存する最大の鳥類、ダチョウの卵がもっとも大きく、重さは約1600gもあります。以下、エミュー(約700g)、ヒクイドリ(約600g)、レア(約500g)と大きい卵が並ぶのですが、この次がキーウィなのです。ダチョウは雌の体重が120kgほどあるのですが、体重と比べた卵の重さは2%以下です。一方、キーウィの雌は体重約2kg、ニワトリくらいの大きさを想像していただいたらいいでしょう。しかし卵はなんと約400gもあります。つまり体の重さと比べて20%の重さの卵を産むわけです。体との相対比でいくといかに大きな卵を産むかお分かりいただけると思います。ちなみに皆さんが食卓で食べるニワトリの卵は約60g、母鳥の体重2kgとすれば3%ということになります。

玉子の大きさ比べ
玉子の大きさ比べ

 六番目はやや専門的になりますが、卵を作り出す生殖器官、これを卵巣といいますが、この卵巣は例えば哺乳類では左右に1対あります。しかし鳥類では一般には右側の卵巣が発生の途中で発達を中止するため痕跡(こんせき)しかなく、左側の卵巣だけなのです。ところがキーウィは左右の卵巣とも発達しているのです。
 最後の七番目の不思議、それは卵がヒナに孵(かえ)るまでの日数である孵化(ふか)日数、これがとてつもなく長い日数を要するのです。おなじみの鳥であるニワトリが21日、ツバメが14日、スズメは11日、最大の卵であるダチョウでは42日、それを上回るのがオウサマペンギン53日、ヒクイドリ56日。しかしキーウィはなんと75日という長さなのです。ちなみに鳥類の最長はワタリアホウドリの80日でキーウィはそれに次ぐものです。
 ところで私が35年間、天王寺動物園に勤務していて一番驚いたことはキーウィとヒトが合唱をしたことです。1970年に最初に贈られてきた雄のキーウィ、名前はニュージー君といい、雌がわずか3ヵ月で亡くなったため、1羽だけで飼育されていました。当時のキーウィ舎は動物病院の裏にあり、夜7時を回った頃に鳴声が時おり聞かれたものでした。当時の担当はベテランの女性飼育員で磯田さんという方でした。

1970年に来園したオスのニュージー君
1970年に来園したオスのニュージー君

 1979年も終わろうとしていた師走のある日、磯田さんが私の元に来てキーウィと合唱をしていると打ち明けてくれました。クリスマス前の12月23日の夜、磯田さんが「清しこの夜」を口ずさみながらキーウィ舎へ入室した時に、なんとニュージー君がその歌に合わせるかのように鳴きだし、それ以降は毎晩、磯田さんの口ずさむ歌に合わせてニュージー君が鳴いたそうです。特にスローテンポの曲、「赤とんぼ」や「荒城の月」、「やしの実」などを好んだとのこと。
 磯田さんはウソをつくような人ではないものの、キーウィが歌に合わせて合唱するなんて・・・・。しばらくは半信半疑、どう考えても分かりませんので、磯田さんに了解をもらってテープレコーダーを設置することにしました。明けて1980年正月のある日、前夜に録音したテープを再生していると、磯田さんが歌いだすと同時にニュージー君の鳴き声がそれに合わせるかのように聞こえ出しました。時間にして20秒くらいは続いたでしょうか。すごい!!本当なんだ。感動で胸が一杯になりました。ヒトと動物がお互いの信頼関係を深めると、こんな奇跡みたいなことが起こるのだと。
 後日談。1983年4月末をもって磯田さんは定年退職されましたが、それまでの間、夜の合唱会はずっと続きました。退職前に一度だけ磯田さんに代わって私がキーウィ舎に入れてもらいました。夜7時、磯田さんの真似をして、「キューちゃん、おはよう、元気?」などと声をかけながら入室し、「赤とんぼ」を歌い始めたのです。しばらくして真っ暗な中でニュージー君が巣穴の中から出てくる気配が感じられました。私の足元をフンフンとにおいをかいでいるのも分かりました。緊張しながら歌い続けていたその時、足を思い切り蹴(け)られました。代役がばれてしまったのです。残念でしたが、そう簡単に信頼関係を築けないことも分かりました。磯田さんとニュージー君の13年間の交流の深さを痛感した夜でした。

(宮下 実)