聞いたことがないでしょう、「はまどうぶつえん」なんて。私の名刺の肩書きに書いてあるのです。お会いした方と名刺を交換すると、必ず聞かれます、「このどうぶつえんはどこにあるんでしょうか?」
 実は、私は子供の頃は昆虫少年で、動物学者を夢見ていたものです。その後、俳優という別の道を歩むことになってしまいましたが、生き物が好きなことに変わりはなく、大好きだったお絵かきの対象も動物の絵に向けました。舞台のお稽古や本番などで神経が疲れたときは、動物の絵を描いて心を休めているのです。それを楽屋に飾り、「はまどうぶつえん」と名付け、勝手に「えんちょう」を名乗りました。だからひらがなの「どうぶつえん」なのです。今50種類くらいの動物がいます。
 数年前、アルゼンチンの日本食レストランで、そこのおかみさんに名刺を渡し、ちゃんと「どうぶつえん」の説明もしました。なのに帰国して数日後、私のもとにその人の娘さんからメールが入りました。「はまどうぶつえん えんちょうさま ヌートリアという小動物を飼っていますが、餌や病気の時の薬などについての情報がありません。教えてください」困りましたね、本物の園長ではないんですから、わかるわけがありません。すぐに仲の良い上野動物園の友人に頼んでみましたが、「うちにはヌートリアはいないので、天王寺動物園に頼んだらどうですか!」という返事でした。
 アルゼンチンから我が家、上野動物園から天王寺動物園と、大変な騒ぎでした。結局天王寺発で説明をしてもらって、一件落着となったのです。家内からは「ほらごらんなさい、園長なんて書くから誤解されるのよ!」と言われてしまいました。それでもまだ私は「はまどうぶつえん えんちょう」を名乗っています。 
(はまはた けんきち)