現在、日本には動物園70施設と水族館66施設が加盟する(社)日本動物園水族館協会という団体があります。この協会の役割の1つに、国際的な視野に立って、自然や貴重な動物を保護することがあります。ひとつひとつの動物園や水族館ではできないことを協力して行っています。たとえば、情報を共有化して動物展示や飼育技術の進歩を図る、動物交換によって共同繁殖を図るといった事業を行っています。

種保存事業と種保存委員会
 これらの事業の中の最も重要なものの1つに種保存事業があります。これは、希少動物の積極的な飼育・繁殖を図り、次世代に引き継ぐとともに野生復帰も図るためのものです。この事業を推進するために協会は内部に種保存委員会を設置しています。この委員会は、世界の動向に合わせながら国内で飼育している希少動物の中から血統登録種を選定すると同時にその種の担当者(種別調整者)を選出しています。血統登録とは、人間でいう戸籍や住民基本台帳のようなもので、その動物の出生年月日、出生場所、両親などの情報を集め、繁殖障害をきたす可能性のある近親交配を避け最適なペアリング(つがい形成)やグルーピング(群れ形成)をするための重要な情報です。
 現在、国内では哺乳類(ほにゅうるい)72種、鳥類46種、両生・爬虫類(はちゅうるい)15種、魚類21種、合計154種を希少種として血統登録しています。この血統登録事業は世界的にも行われており、2002年現在で147種が国際血統登録種にあげられています。もちろん、国内の種別調整者は国際血統登録担当者と密に連携を取り、世界的な種保存事業にも貢献しています。

シシオザル
シシオザル

 種別調整者は年1回血統登録調査を実施し、国内の現状を把握しています。さらに、そのデータを基に種ごとの繁殖計画を立案しています。また、種保存委員会では種別調整者を束ねる類別調整者を配置し、哺乳類や鳥類、両生・爬虫類、魚類の情報を取りまとめ、類別ごとの調整や全体計画の立案を行っています。この他、遺伝子の保存や応用を検討する遺伝資源応用検討委員会と精子や卵子の保存とそれを用いた人工授精など人工繁殖に関する技術の情報収集と提供を行う人工繁殖検討委員会からなる技術部会もあります。

種保存会議
 種保存委員会は、2年に1回種保存会議という全体会議を開催しています。この会議は、全類別調整者と多くの種別調整者や動物園水族館の園館長が集まり、血統登録を行っている各動物種の現状と繁殖計画に関して論議し、それらの実態を把握するとともに将来的および今後2年間の全体的な行動計画を立案するものです。また、会議では、日本国内の希少野生動物の現状を把握・認識する目的で、環境省の野生生物専門官や研究者を招いて講演をしていただいています。もちろん、日本産希少野生動物を飼育している動物園水族館の担当者からの報告もあり、行政、研究者および動物園水族館関係者の相互理解を深めています。昨年11月に第15回種保存会議が静岡市立日本平動物園で開催されました。
 当園は希少サル類であるシシオザルとドリル、希少ワニ類であるヨウスコウワニの種別調整と技術部会の人工繁殖検討委員会委員長を担っており、この会議に毎回参加し、行動計画の策定に参画しています。

天王寺動物園で飼育している希少動物
当園が血統登録を担当している希少種と今後繁殖が期待される希少種を紹介します。
 まずは、シシオザル。インド南西部の森林に生息するサルの仲間で、尾の先端がライオンと同じ房状であることからこの名前がつきました。野生ではその生息数が2500頭以下に減少し、絶滅の危機に瀕(ひん)しています。世界の動物園では合計約600頭が飼育され、そのうち日本では18施設で74頭が飼育されています。当園は、種別調整園として国内最多の3群8頭を飼育しています。

ドリル
ドリル

 次に、ドリル。アフリカのナイジェリアとカメルーンの限られた森林に生息するサルの仲間です。約10年前のデータで野生生息数が10,000頭といわれ、絶滅危惧種に指定されています。たぶん、現在は更にその数が減っていると思われます。動物園界でもその飼育頭数は少なく、世界の動物園で約60頭しか飼育されていません。現在日本では2頭が生存し、そのうちの1頭を当園が飼育しています。国際協力が最も必要な種です。

ヨウスコウワニ
ヨウスコウワニ

 ヨウスコウワニは、その名のとおり中国の揚子江中下流と太湖周辺に生息するアリゲーターの仲間です。野生では200頭しか存在せず、ジャイアントパンダやキンシコウと並ぶ中国の第1級の希少動物です。近年、中国では人工孵化(ふか)に成功し、飼育個体数が10,000頭を越す勢いです。しかし日本国内では現在、当園の4頭を含め6施設で14頭が飼育されているものの、過去に1回の繁殖成功例しかありません。より一層、繁殖に力を注がなければならない種です。

アムールトラのセンイチ(右)とアヤコ(左)
アムールトラのセンイチ(右)とアヤコ(左)

 当園では、この他にも多くの希少動物を飼育し、繁殖を目指しています。最後に、トラの仲間で最大級のアムールトラを紹介します。アムールトラは、生息地である中国とロシアの国境を流れるアムール川(中国名:黒竜江)にちなんで名づけられたもので、別名シベリアトラともいいます。多くのトラが絶滅するなか、動物園での保護・繁殖活動が実を結び、国際血統登録数が野生生息数の450頭を上回り、500頭を越しています。国内では25の施設で48頭が飼育されています。当園では阪神タイガースがリーグ優勝した2003年に東京都多摩動物公園で生まれたオスのセンイチを、1997年に当園で生まれたメスのアヤコとペアにするため導入しました。昨年の秋ごろからセンイチが性成熟の兆しを見せ始めたため、12月に同居を開始しました。まだ、アヤコの尻に敷かれていますが、近い将来2世が誕生することを期待しています。

(竹田 正人)