「ゾウの夢は見たくない」

 私たちゾウ担当は時々ゾウの夢を見ます。でも我々が見るゾウの夢は、実は怖い夢ばかりなのです。そして私たち見習いだけでなく、ベテランの先輩たちもゾウの悪夢にうなされます。夢に出てくるのはたいてい相性の合わない、あるいは自分が悩んでいる方のゾウです。自分が今練習している作業、ゾウの脅しや攻撃、先輩飼育係の厳しい指導、ゾウに襲われる仲間や後輩、ゾウの脱柵(だっさく)、絶対起こりえないような最悪の事故など、今自分が最も悩んで恐れていることを夢に見るのです。4人のゾウ担当者には、皆それぞれの立場で悩みごとがあるのです。
 私もゾウ担当になって以来、楽しい気分で出勤する日が全くなくなりました。そんな朝にゾウの夢で目覚めると更に気分が重くなります。しかし落ち込んだままで仕事をすると、すぐにゾウに見抜かれ、ねらわれてしまいます。だから前の日に、どんな辛いことがあってもゾウの前では気持ちを切り替えて、いつもの自分になる修行もゾウ担当に必要なのです。

(西村 慶太)