毎年秋になると、無造作に落ちているどんぐりを多く見かけます。植物の実としても忘れ去られ、どんぐりの好きな動物にも見向きもされず、そのままにされています。たぶん虫たちが先客として中に入っているのでしょう。どんぐりはブナ科の木の実のこといい、日本にはどんぐりのなる木が20種類ぐらいあります。縄文時代にはどんぐりは貴重な食料だったようで、どんぐりを蓄えたり、調理したりするために土器が発達したとも考えられています。すべてのドングリが食べられるわけではありませんが、スダジイ、ツブラジイ、マテバシイなどは生で食べられますし、炒ればさらにおいしく食べられます。タンニンの多いクヌギなどは、水に数日つけて、あくを抜いた後、粉にして小麦粉などを加え、うどんなどに加工すれば、なんとか食べることができます。

マテバシイ
クヌギ

 どんぐりは乾燥に弱く、木から落ちて1〜2週間も土に埋まらないで置かれると、発芽できなくなってしまいます。自分では土にもぐれないので、リスなどの小動物の力を借りて、土の中に埋めてもらいます。リスは食料として蓄えているだけなのでしょうが、埋めた場所を忘れてしまうこともあるので、食べられなかったどんぐりは芽を出すことができます。埋められずに、そのままになったどんぐりは、虫などに食べられてしまいます。

ミケリス

 どんぐりの好きな動物はリスだけではありません。クマやノネズミ、鳥のカケスもどんぐりが大好きです。カケスはカシやナラ、クリの実も好みます。カケスは、運んだどんぐりのすべてを食べるわけではなく、必ず食べ残すので、木から落ちたどんぐりを遠くまで運ぶのに役立っています。どんぐりは「どんぐりころころ」の歌のようには、遠くまで転がることはできません。
リスはどんぐりが大好きと思われがちですが、すべての種類のどんぐりを食べているわけではありません。人がおいしいと感じるブナやスダジイ、ツブラジイ、マテバシイなどを好んで食べるそうです。
山にどんぐりなどの木の実が少ない年には、クマは食べ物を求めて人里まで降りてきて作物を荒らしたり、人に危害を与えたりすることがあります。自然の恵みは多くの生き物の役にたっています。どんぐりもその一部なのですね。大阪市内の公園では、マテバシイやシラカシ、アラカシなどを、公園に植えているのですが、なかなかどんぐりを見ることができません。どんぐりのなる木には、花が咲きその年に実がなるものと、2年後の秋に実がなるものがあります。公園では景観上、どんぐりの実より樹形を重視し、剪定してしまうことも多く、これもどんぐりを見かけない原因になっています。

カケス
アラカシ

 最後に、どんぐりを拾ったからといって、動物園のリスにむやみに与えないでください。飼育担当者はリスの健康を管理するため毎日の餌を考えて与えていますし、どんぐりの種類によってはリスに害を与えるものもあります。

(松野 広宣)