チンパンジーの健康診断


  当園のチンパンジーたちは、1991年から翌年にかけて3頭が結核を発症して以来、1年に一度、獣医師による健康診断を受けています。検査項目はヒトのものと似ていて、体重測定、胸部レントゲン撮影、血液検査、ツベルクリン反応、ぎょう虫検査などです。しかしヒトと大きく違うことは、彼らがすすんで動物病院に行って健診を受けてくれるわけではないということです。普段見たこともない機械や痛い注射など、彼らはとても嫌がります。そこで、麻酔をかけて眠ってもらっている間にこれらの検査をおこないます。
 4歳のレモンは、今年生まれて初めて健診を受けました。できればもっと早いうちに行いたかったのですが、レモンに麻酔をかけるためには、その前に一緒にいるお母さんのアップルに麻酔をかける必要があります。けれど、アップルは自分が麻酔をかけられそうになると、レモンの腕を持って盾にするかのように振り回すのです。これでは危険で麻酔どころではなく、毎年断念せざるを得ませんでした。そこで今回は、親子を別々の部屋に分けてから麻酔を打つことにしました。しかし、これまで親子を完全に分離したことは一度もありません。そこで時間をかけ、隣り合った二部屋を用いて親子それぞれを餌でおびき寄せ、間仕切りをがたがた鳴らしても何も起こらない、という状況に慣れさせました。
 そして当日。ここで失敗すると、その後しばらくは警戒されるため同じ方法は試せません。今年度の健診ができるかどうかがかかっているためドキドキする気持ちを押し隠し、普段と同じ風を装ってそれぞれを餌でおびき寄せ、親子が分かれた瞬間に急いで仕切りを閉めました。不安で泣き叫ぶと思われたレモンは想像以上に落ち着いており、見慣れない顔の獣医師たちに威嚇の声をあげたり、アップルの健診中はでんぐり返りなどしてひとりでも楽しそうに遊んでいました。
 今回はこの方法がうまくいきほっとしましたが、来年はまた、そのときの親子の関係を見て、新たな方法を考えなくてはいけないかもしれません。

アップルレモン
チンパンジーも腕から採血します

(中島 野恵)