「両生類の箱舟」ホームページのトップページ
「両生類の箱舟」
ホームページのトップページ
www.amphibianark.orgで繋がる。

 皆さんは「ノアの箱舟」というお話を知っていることと思います。善良なる人間ノアは、神のお告げにより、家族と身の回りの生きものたちを方船(はこぶね)に乗せて、神により引き起こされる大洪水から脱出するというお話です。ちょうど今、世界では、両生類(カエルやサンショウウオの仲間)の大絶滅が起こりかけていて、それを救出するために「両生類の箱舟」という活動が行なわれています。私は、昨年と今年、日本動物園水族館協会の代表として、「両生類の箱舟」について話し合われた世界会議、CBSG(野生生物保全繁殖専門家グループ)総会に行ってきましたので、皆さんに最新の情報をお伝えします。

 

2007年CBSG総会
2007年CBSG総会
ハンガリー・ブダペストにて「カエル年」や
「気候変動」が話し合われた。

両生類が危ない
 2000年から行なわれているIUCN(国際自然保護連合)の世界両生類調査の結果、世界には5918種の両生類がいて、そのうちの約半分の種で生息数の減少が起きていることが分かってきました。しかも32%にあたる1931種が絶滅の恐れのある種になっているというのです。哺乳類と鳥類の調査では、絶滅危惧種の割合がそれぞれ25%、12%なので、両生類がいかに危険な状態になっているかが分かります。「両生類の箱舟」の中心になっているケビン・ジッペル博士のお話では、現在の絶滅の速度は、これまでに両生類が絶滅してきた速度の270倍にものぼり、「恐竜が絶滅して以来」の絶滅速度なのだそうです。絶滅の原因は、生息地の破壊と汚染、過剰な採取、外来種による迫害などがあげられてますが、その中でもCBSGが最も重視しているのが、「カエルツボカビ症」と「気候変動」です。

 

ツボカビ症のカエル
ツボカビ症のカエル
皮膚が侵されるので口を開けて呼吸をしている。
脱皮殻が部分的に残っている。

カエルツボカビ症ってなに?
 カエルツボカビ症は、ツボカビ菌が両生類の皮膚にとりついておこる病気で、強い感染力と80%にものぼる高い死亡率により、群れの全滅や種の絶滅を引き起こすとても恐ろしい病気です。ツボカビ菌は水の中や湿った泥の中に住んでいて、遊走子という胞子をまきちらして感染を広げます。両生類以外のほかの動物にはうつらず、飼育しているカエルでは治療もできるのですが、いったん野山に広がると根絶することができません。世界中に広がっており、特にオーストラリアとパナマ、コロンビア、エクアドルなどでカエルの絶滅を引き起こしています。

ツボカビ症、日本に上陸
 恐ろしい両生類の病気、カエルツボカビ症が、ついに日本で発見されました。昨年12月25日のことです。この病気を調べていた麻布大学の宇根有美博士が東京都と埼玉県の個人が飼っていた外国産のカエルからツボカビ症を確認したのです。その後、日本の数か所からカエルツボカビ症が発見され、外国産のカエルの中にある程度拡がっていることがわかってきました。これを放っておくと日本のカエルがツボカビ症にかかり絶滅する種も出るかもしれません。今、環境省は動物園も含む専門家の力を借りて、全国のツボカビ症の調査を進めています。

カエルを守ろう「両生類の箱舟」
 世界のカエルの約半分が、中南米にすんでいます。ところが、中南米では、年間に10種ものカエルが絶滅し続けているといわれています。
 1995年にツボカビ症が侵入したパナマでは毎年28kmの速度で南東に向かって広がっています。感染した地域では、生息数が極端に減少し、絶滅状態になるカエルが出ています。そこで、ツボカビ症がやってくる前に、その地域のカエルを国外に運び出し、救出する活動が始まりました。35種のカエルが選ばれ、運び出されたカエルたちは、今、米国・アトランタの動物園で12種が繁殖し、故郷に帰る日を待っています。これが「両生類の箱舟」の活動の一例です。

気候変動がなぜカエルに
 2007年のCBSG総会は、「気候変動」がテーマとして取り上げられ、議論されました。このままいくと、21世紀末には1.8〜4.0℃の気温上昇が起こり、アマゾンは乾燥し、北米やインドでは大雨が降るようになるなど気候が変動して生きものが生息地を失ったり、新しい感染症が発生し、大きな影響が出るといいます。鳥は、渡りの季節と子育てに必要な虫の発生の季節がずれて繁殖に失敗するかもしれません。マダガスカルのあるカエルでは、2003年までの10年間で生息する標高が65m高くなったことが紹介されました。気温が高くなると、カエルは山頂に向かって移動しますが、頂上まで追い上げられた後は絶滅しかありません。これが気候変動の影響の一例です。

 

安佐動物公園の箱舟
安佐動物公園の箱舟
オオサンショウウオが27年間も
飼育下繁殖を続けている。

「2008年カエル年」
 「両生類の箱舟」活動では、その箱舟になるのは動物園・水族館です。生息地で生き延びることができない種を選んで、動物園・水族館で繁殖させ、また地域に帰していく活動です。CBSGは世界中の動物園・水族館に「両生類の箱舟」に参加することを呼びかけています。
 さらに、「2008年カエル年」という大キャンペーン運動を行なうことにしました。それは、世界の人々に両生類の大切さと壊滅しそうな現状を知らせ、救出に立ち上がってもらうというものです。「2008年カエル年」の取組みは今年の12月31日に世界中で打ち上げられ、来年の12月までの1年間、いつもカエルやサンショウウオの話題で盛り上がるように、いろいろなイベントやシンポジュームが計画されています。ウォルト・ディズニー・カンパニーが「お姫様とカエル」という映画を作り応援してくれたり、世界のプリンセスがぬいぐるみのカエルにキスをしたり、緑の服を着て歩く行事も予定されています。2008年は世界の街角にカエルのマークと緑の色があふれるはずです。皆さんも、世界のカエルを救出する活動に協力してください。「両生類の箱舟」=AARKはエイ・アークと読みます。アークは箱舟という意味で、来年の流行語は「エイ・アーク」です。

(くわばら かずし)