私が動物のいない動物園へ通うようになったのはいまから19年ほど前です。動物好きなみなさんは動物がいない動物園へ行きますか。だれもそんな面白くないところへは行かないでしょう。でも私は19年間ずっと通っているのです。なぜ? それは大昔の動物が残した足跡の化石を研究しているからです。今でもハイキングに行くと川原や林道にいっぱい足跡が見つかります。でもその足跡をつけた主を見ることは稀です。ましてや、いまから2000万年前とか数100万年前の足跡となると、もうその主はいないのです。
 いま全国で恐竜の足跡産地は入れないで48カ所足跡の化石が見つかっています。それは多い順にゾウとシカ、鳥、サイ、ワニなどのものです。この中にはいまの熱帯や亜熱帯に棲んでいる種類とよく似たものがいて、太古の暖かった頃に日本へ渡ってきて生活していたのです。私は東南アジアへ年に3、4回行きます。そこで動物たちの足跡を探しては石膏で型を取ります。大昔の動物の足跡の型といまの動物の足跡の型を比べて、その種類と歩き方やどんなところで生活していたのか、ほかにどんな動物がいたのか、などを考えるのです。だから私の行くところでは動物が姿を見せなくても足跡があれば十分研究できるのです。熱帯雨林や河岸でゾウやサンバーやイリエワニ、オオトカゲの姿を見ると興奮しますが、それ以上に前の夜に出てきてつけたトラやヒョウやマレーグマの大きな足跡、世界一小さなシカのジャワマメジカやツパイやネズミなどのよく見ないと見落とすようなプチ足跡が早朝の熱帯雨林で見つかると、もうそこは私にとって“にぎやかですばらしい動物園”なのです。
(おかむら よしあき)