2006年3月15日に、新しいホッキョクグマの雄が来園しました。この雄は2004年12月3日にロシアのペルミ動物園で生まれました。豚饅でおなじみの「551の蓬莱」(株式会社蓬莱)さんにスポンサーになっていただいたので、ゴーゴと名付けられました。そのゴーゴが来園してから早くも1年がたちました。そこで、この1年を振り返ってみました。
来園前、私はホッキョクグマのことをよく知らなかったので、1歳3カ月と聞いて、とてもかわいらしい子熊を想像していました。ロシアから送られてきた写真も真っ白でぬいぐるみのようでした。しかし、写真は小さいころに撮られたものでした。
3月15日の午後9時、ゴーゴを積んだトラックが天王寺動物園に到着しました。トラックが停車しても何やら“ドンッ、ドンッ”という音が聞こえます。「?」と思って、荷台の扉を開くと、輸送箱の中でゴーゴが必死に箱の扉に体当たりをしているのです。その音は、トラックから降ろす作業の間やむことはありませんでした。実物と対面してみると、その大きさは想像をはるかに超え、体重は約170kgもありました。1歳3カ月でこんなに大きくなるとは知らず、自分の知識不足を痛感しました。ホッキョクグマの子供は約2年半は母親と一緒に暮らすと聞いていたので、最初のうちは一緒にプールに入って、泳ぎを教えたりしなければならないのではないかと思っていました。また、ホッキョクグマといえども子熊のうちは寒さに弱いのではないかと思っていました。しかし、実際には3月の大阪は暑くてたまらないようで、やたらと水をがぶ飲みしたりしていました。
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到着時のゴーゴ |
3月27日の休園日に、初めて放飼場に出したのですが、10分ぐらい陸地の様子をうかがった後、思い立ったようにプールへ入り、気持ちよさそうに泳ぎまわり、寝室に収容する時間になってもなかなか戻って来ずに、初日から苦労をさせられました。しかし、室内に閉じ込めておくのは暑く、ストレスがかかるため、早く出入りを覚えさせ、毎日出してやりたいと思いました。
そうして、4月6日に一般公開の日を迎えました。その日は大勢の人が詰めかけたり、紅白の幕が張ってあったりしたので、さすがのゴーゴも少し驚いた様子でしたが、すぐに慣れ、たくさんの観客の前で、まだあまり上手くない泳ぎを披露していました。
一般公開して、毎日放飼場に出すようになると新たな問題が出てきました。外にいる間は、ひたすら同じ場所を行ったり来たりするので、足の裏がすりむけ、出血するようになってしまったのです。夕方、寝室に収容し、朝になると出血は止まるのですが、放飼場に出して、歩き回るうちにまた、出血するという日々がしばらく続きました。遊びざかりのゴーゴに何か刺激を与えなければならないのではと思い「おやつタイム」を始めることにしました。本来。寝室に帰ってから与えるえさの一部を、日中、放飼場のあちこちに投げて与えるようにしました。こうすることによりゴーゴの動きに変化をつけ、体の同じ部分に負担がかからないようにしようと考えたわけです。また、遊び道具としてブイやまくら木などをプールに入れました。これらがよかったのか、激しく動きまわっている時間と休憩する時間のメリハリがついて、足の裏の出血は止まりました。
ゴーゴにとって大阪の夏は暑過ぎるのではという心配が、このころにありました。実際、プールに入って涼をとるより、陸地で長く伸びて寝ていることが多く、少々バテ気味だったようです。7月15日には氷柱をプレゼントしたり、放飼場のコンクリートが焼けて熱くならないようにスプリンクラーで水をまいたりすることによって、特に体調をくずすことはなく、夏を乗り切ることができました。また、6月ころより普段の「おやつタイム」に加えて、週1回、土曜日に生きたコイを使ってゴーゴのストレス発散をはかりました。この日だけはどんなに暑い日でも本能に目覚め、生きたコイを追いかけまわしていました。回を重ねるごとに泳ぎも巧みになり、スムーズに捕まえることができるようになりました。
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暑い夏には、氷柱をプレゼント |
こうして体も大きくなり、12月3日に、ゴーゴは2歳の誕生日を迎えました。この日は蓬莱さんから誕生日のプレゼントとして大きなサケを贈っていただきました。たくさんのお客さんもお祝いに駆けつけていただき、ゴーゴにとっても楽しい1日だったと思います。野生のホッキョクグマでは2歳半ぐらいまでは母親と一緒にすごし、その後、独り立ちします。これでゴーゴもまもなく大人の仲間入りといったところです。
しかし、まだまだやんちゃなところはなおっておらず、時々飼育係や獣医師を困らせます。今年に入った1月9日のことでした。ゴーゴの右前足が血で真っ赤に染まっていました。夕方、寝室に収容して観察したところ、かなり深い傷でした。どうやら遊びに夢中になって、どこかで切ってしまったようです。獣医師に診察してもらったのですが、血の止まる様子がなく、寝室内で大暴れするので、周囲は血だらけになってしまいました。そこで、しかたなく麻酔で眠らせて縫合手術をすることになりました。手術後、数日間は傷口が開かないように、寝室に閉じ込めていましたので、お客さんに見ていただくことができませんでした。その間、何人かのお客さんに「ゴーゴは大丈夫ですか?」と声をかけていただきました。ゴーゴのことを心配していただいているファンも多くいらっしゃることをありがたく思い、今後、このようなことがないように気をつけて飼育したいと反省しました。
このように、たくさんの方々に愛されすくすく育っているゴーゴですが、近い将来、年齢に見合った雌(すでに名前はイッチャンと決まっています)を導入して、2世の誕生を目指したいと思っています。皆さん、これからもゴーゴ君を暖かく見守ってください。
(飼育課:油家 謙二) |