2006年のお盆、私は天王寺動物園で催された“戦時中の動物園展”で、出版したばかりの絵本『カメラを食べたゾウ』を朗読させていただきました。まだ記憶に新しい、あの湾岸戦争(1990年〜1991年)で犠牲になった、クウェート動物園の動物達の話です。動物園の人気者のゾウのアジザサラは、たくさんの動物達が餓死したり殺されたりしていく中、取材にやって来たカメラマンのカメラを空腹のあまり食べてしまいます。けれど、危険をおかしてこっそりとエサをやり続けに来ていた、2人の兄弟のおかげで、生きのびることができたのです。ちょっぴり長くて難しい話でしたが、子ども達は真剣に私の読み語りに耳を傾けてくれました。
  今から20数年前、私はシンガポールの日本人学校で教師をしていました。やはり戦争の傷跡の残るシンガポールで、私は上野動物園の3頭のゾウの話を子ども達にしました。太平洋戦争の最中、爆弾が落とされて動物達が街に暴れ出ては危険だという理由で殺されていったゾウ達の話は、あまりにも有名です。小学1年生だった子ども達はそれから帰国後、上野動物園のゾウ達のお墓(動物慰霊碑)の前で再会します。中学生になった約30名の教え子達は、もう二度とあんな悲しいことが起こらないようにと、シンガポールの国の花、蘭(らん)を捧げたのでした。
 その数年後に起こった湾岸戦争で、クウェート動物園のゾウ達は、また愚かな戦争の犠牲となりました。その時、記事になった英字新聞を送ってくれたのが、教え子の一人だったのです。このことがきっかけとなって誕生した絵本が、『カメラを食べたゾウ』です。教え子達と同じように、私も世界のどこかで争いごとが起きるたびに、ふっと、その国の動物園の動物達のことが気にかかります。世界中の人々や動物達が安心して平和に暮らせるようにと、祈るような思いで、私は今、私の絵本を読み語り続けています。

(かまた しゅんそう)