 |
薬を混ぜ込んで作った
特製チョコレート |
 |
蒸したサツマイモに薬を
練りこんだイモ団子 |
みなさんは、風邪をひいたりお腹が痛くなった時など、体の具合が悪いときに、薬を飲んだりしますよね?ちょっと苦かったりして嫌だなぁって思うこともあると思いますが、そこは我慢してしっかり飲んでいると思います。私たちは薬を飲めば病気が治ったり、体調がよくなったりするってことを知っていますから我慢して飲みますが、動物ではそうはいきません。
注射するという方法もありますが、ごく限られた動物にしか使えません。例えばライオンに注射するとしましょう。オリの中に手を入れて注射を「プスッ」とできたらいいんですが、おそらく手を入れた時点で私の腕はなくなってしまうでしょう。そこで最もよく使う方法はエサに混ぜるという方法です。でも、なかなか一筋縄ではいきません。どうしてもいつも食べているエサと違う味、しかも苦かったりするわけですから、当然「あれ?おかしいぞ」って思うわけです。じゃあどうすれば動物たちにうまく薬を飲んでもらうことができるか、実はいつも獣医師も飼育係も頭を悩ませています。
薬も錠剤、粉薬、シロップ剤などいろいろあります。それぞれの利点と欠点を紹介しましょう。まず錠剤。これはエサの中に仕込むことができます。例えばアジの口の中、バナナの実の中、パンの中など・・・。特にエサを加工しなくても入れることができますので手間がかかりません。薬を用意する獣医師もわざわざ薬の重さを量って1回分ずつ袋に入れる必要がありません。しかし、問題は「カリッ」という歯ごたえが必ずあるということです。ネコやイヌの仲間は、エサを丸飲みにすることが多いので気づかれることなく薬を飲んでくれますが、サル達はモグモグとエサをかむうちにたいてい気づいて、薬だけ「ペッ」と吐き出してしまいます。
次に粉薬。これはいろいろなものと混ぜることができ、薬自身はほとんどわからなくなります。もともと粉の薬もあれば、錠剤を粉にして与えることもあります。例えば蒸したサツマイモと練り合わせてイモ団子にしたり、ジュースに混ぜたり、肉に切れ込みを入れてすり込んだりして動物に与えます。ただし普通のエサとは味や匂いがどうしても違うので、ただ混ぜ込んだだけではダメな時はもう一工夫が必要です。先輩獣医師の話では、ジャムに混ぜてパンにぬる、溶かしたチョコレートに混ぜてから固めるなど、ちょっとした料理人になったような経験をしたそうです。
シロップ剤はジュースなどの液体に混ぜたり、パンにしみ込ませたりして使います。子供用なので甘くて飲みやすく使い勝手もいいのですが、薬の種類が少なく、また量もたくさん与える必要がありますので、投与する機会は限られます。
このようにどのようにしたら(動物をごまかして)薬を飲んでもらえるか、いろいろ考えながらやっています。しかし、中にはどんな工夫をしても薬入りだとわかる動物がいます。ゾウは非常に敏感で、薬が入っていることにすぐに気づいてしまいます。それ以降何も入っていないエサまで疑って食べないということがありました。そこで、ペレットをふやかしてかためた特製団子を毎日与えています。いざ、薬を与えることが必要になったときに薬を入れて与えています。しかし、薬の量が一定量を超えると気づかれ、食べてくれません。ゾウのように大きな動物には、かなりたくさんの薬を飲んでもらわなくてはならないのですが・・・。
さあ、薬を与えることだけでこんなに苦労するということが分かっていただけたでしょうか?だからこそ動物達に健康でいてもらうのが一番なのです。動物園では動物が病気にならないように決められたエサを与えています。皆さん、まさか動物に食べ物を与えたりしていないですよね?そういう人を見かけても絶対に真似しないでください。動物たちが健康で薬を与えるようなことがないように。
(飼育課:佐野 祐介) |