展示室内のようす

 太平洋戦争中、日本の動物園では餌不足からゾウをはじめとする多くの動物が死にました。また、軍部の命令で「空襲で檻が破壊され、動物が逃げ出したら大変だから」と、日本中の動物園で猛獣やゾウが処分されました。
 天王寺動物園では、8月12〜23日に“戦時中の動物園展“を開催し、当園で犠牲になった動物の写真、新聞記事と剥製を展示しました。また、絵本の読み語りサークル”絵本笑店街”の皆さんによる戦争の悲劇や命の大切さをテーマにした絵本の読み語りや、職員による戦時中の動物園の話も行いました。


ライオン、トラ、ヒョウの剥製

 餌と暖房用の燃料の不足で死んだ2頭のゾウの写真や、毒殺したライオン、トラ、ヒョウなどの生前の写真と剥製を展示しました。これまで、各地で行われた戦争展などに剥製を貸し出したことはありましたが、園内で公開するのは今回が初めてでした。ご覧になった方からは「剥製が何かをすごく訴えてきた」「見せていただいて良かった」とのご意見をいただきました。


絞め殺されたヒョウと飼育係の原さん

 飼育係の原春治さんが赤ちゃんから人工哺育で育て、檻に入っていっしょに遊ぶことができるほど慣れていたヒョウは、どうしても毒入りの肉を食べなかったので、やむなく首にロープをかけ、数人で絞め殺しました。ヒョウは原さんにロープを巻かれるときも、「何だろうか」ときょとんとしていたそうです。最後まで飼育係を信頼していたのです。


軍装に身を包んだチンパンジー

 戦前を代表する人気動物であったチンパンジーのリタの剥製と写真、貴重な映像も放映しました。年配の方には「わあ、懐かしい」とのお声を多数いただきました。しかし、戦時下ではチンパンジーも、兵士の格好をさせられて戦意高揚に利用されました。そうした点では彼らも戦争の犠牲者だったと言えます。こうした写真を掲載した新聞にも、また、それを勇ましいと歓迎した一般市民にも、戦争に責任が無かったとは言えません。


絵本を読む鎌田俊三さん

 戦争の悲劇は今も続いています。湾岸戦争で苦しんだクウェートの動物園を題材にした絵本“カメラを食べたゾウ”の著者、鎌田俊三さんが、ボランティアで読み語りをして下さいました。思わず引き込まれる迫力があり、少し難しくて、長いお話にもかかわらず、小さなお子さんまでが息を詰めて聞き入っていました。日本もアメリカの後方支援、資金拠出で湾岸戦争に賛成しました。政府がやったことだ、と他人事にできるでしょうか。その政府を選挙で選らんだのは私たち自身です。昭和初期もそうだったように。

 アンケートにご協力いただいた方の中で、お子さんや若い方から「こんなことがあったとは知らなかった」「平和は大切だと思った」等の感想を多数いただきました。人間の都合で殺された動物たちの鎮魂のためにも、せめて、こうして平和の大切さを伝えることで、少しは罪滅ぼしができたかな、と開催に尽力した当園企画調整班はじめスタッフの思いです。
(飼育課 芦田 貴雄)