「本当のイジメの始まり」
 2006年夏。今年もゾウの水浴びの季節が到来しました。私たちがホースでの散水を通してゾウたちと駆け引きする季節です。(No.6参照)
 私もこの作業に関わり2年目にはいりました。特に意地悪で私の反応を試す春子への散水はひとつの試練。とはいえ、私も威嚇される度に春子を叱り、止めさせていたのです。このまま済むとは思っていませんでしたが…。
 何となく意地悪モードに入りそうな時も判ってきたし、叱ることもできる。あくまで鼻の届かない位置にいれば安全やから、そろそろ先輩なしでやってみたいな。しかし、そんな思いは、すぐに打ち砕かれることになりました。
 7月のある日の水浴びタイム。春子のイジメは今までとは桁違いにきついものでした。前ならタイミングよく叱ればスッと止めてくれたのに、今度は何度叱ってもその度に威嚇の方法を変え、私の反応を見るのです。鼻を伸ばしてきての威嚇、鼻振り、水飛ばし、更には芝生を引きちぎって水洗いして投げつける!鼻を伸ばすだけでも叱る度に方向や出し方を次々に変え、威嚇の方法は千差万別。私もつい意固地になり鼻先と向かい合っていると、客席にいた先輩の「下がれ!」の声で我に返り安全圏まで下がる始末。冷静さを欠いた行動。正に春子の思惑通りの行動。後で落ち込んだのは春子の態度ではなく、自分の行動です。そしてそんな小僧の心の内を春子にも読まれているのです。
 この日を境に春子の意地悪のレベルが上がりました。今までの意地悪なんて、ほんの小手調べ、挨拶代わり、お客さん扱い。ゾウ担当になって3年目に入り、ようやく春子に関係者として見られ始めたのです。

(飼育課:西村 慶太)