戦前、戦後の飼育
 天王寺動物園におけるホッキョクグマの飼育の歴史をひも解いてみますと、初来園は1933年9月25日で、ドイツのハンブルクから雄2頭、雌2頭が来園したとの記録があります。そして、来園4年後の1937年に現在も使用しているホッキョクグマ舎が完成しています。現在では冷房設備がありますが、当時はそのような設備はなく、寒い地方に住むホッキョクグマを飼うために、動物舎を建設後、盛り土し半地下式になっています。土の断熱効果のおかげで冷房設備がなくてもけっこう涼しく、昔の人の知恵には感心させられます。
 4頭のホッキョクグマたちが暮らした時代は不幸な時代でした。ホッキョクグマ舎の完成した1937年には、日華事変(日中戦争)が始まり、1941年12月8日には日本軍による真珠湾攻撃が行なわれ、太平洋戦争が始まりました。戦況がだんだん悪くなり、空襲が懸念され、もし猛獣が逃げ出すと危険であるとの理由で、1943年9月から1944年3月にかけて4頭を安楽死させなくてはなりませんでした。
 1945年8月15日に戦争が終わり、平和な時代がもどってきました。しかし、人々も生活していくのがやっとのこの時代、天王寺動物園にはわずかに家畜だけが残った状態で、ホッキョクグマ舎も主のいない日々が続きました。ホッキョクグマが戻ってきたのは戦争が終わって7年も経った1952年9月10日のことで、雌2頭が来園しました。
 その後、雌を2頭飼育する時代が10年以上続きましたが、1964年2月6日に1頭が死亡し、雌が1頭だけになってしまいました。そこで翌年の1965年3月31日に新たなペアを導入し、年を取った雌は出園させました。戦後初めてペア飼育で、繁殖が期待されましたが、結局繁殖に至らず、1971年8月3日に雌が死亡し、雄1頭になってしまいました。2年後に新たな雌の導入を計画し、1973年10月31日に来園したのですが、性別の誤認により来園したのでは雌ではなく雄であることが後にわかり、結果的に雄2頭の飼育になってしまいました。そこで1973年11月16日に新たに雌を導入しましたが、この雌は翌年の1974年3月14日、回虫症であえなく死亡し、また、雄2頭飼育にもどってしまいました。この状態が結局6年以上続きました。

繁殖の成功
 1980年の時点で2頭の雄の推定年齢は16歳と9歳となっていました。繁殖を目指すためには、これらの雄とペアにする雌を導入するより、新たに若いペアを導入する方が得策であると考え、雄に2頭を出園させ、若いペアを導入することにしました。待望の若いペアが1980年12月15日に来園しました。雄のユキオは1979年12月3日、旭川市旭山動物園生まれ、雌のユキコは1979年11月19日、米国タルサ動物園生まれ、来園時共に1歳のかわいい子グマでした。
 野生のホッキョクグマの雌は4〜6歳で性成熟し、赤ちゃんを産めるようになります。雄は3歳ぐらいで性成熟に達しますが、交尾ができるようになるのは6歳以降といわれています。
  4歳を過ぎた1984年の春、繁殖行動が観察されましたが、雌が受け入れず、交尾に至りませんでした。
 1年後の1985年に初めて交尾が観察されました。当時、繁殖に成功していた北海道の旭川、釧路、札幌の動物園に問い合わせたり、外国の文献などを調べたりして出産に備えることにしました。安心して出産させるためには、野生の状態を再現することが必要であることがわかりました。野生では雪の中に穴を掘ってその中で出産しますので、動物園では暗い部屋に閉じ込め絶食状態を保つとともに飼育担当者も動物舎内に入らず、落ち着ける状態を作ってやらなければなりません。新たに産室を造ることは困難なので寝室を改造し、出産スペースを造りました。結局その年は出産に至らず、翌1986年11月10日に初めて出産しました。しかし、閉じ込めるタイミングに失敗し、3頭の赤ちゃんはいずれも翌日までに死亡してしまいました。
 1987年の出産時期には前回を参考に11月2日に産室に隔離し、様子をみていたところ、14日後の11月16日に産室に設置したマイクを通じて赤ちゃんの鳴き声を確認しました。赤ちゃんは雌で無事に成長し、1989年2月20日に岡山市の池田動物園に出園しました。そして最終的にこのペアで合計6産、9頭出産し、3頭が成育しました。
 しかし、ユキオは1995年3月25日に死亡、新たに年齢の近いネボスケ(1977年生まれ)を1995年11月1日に宝塚動植物園から迎え入れることができ、ユキコネボスケとの間で1997年、1998年と2度の繁殖に結びつきましたが、ネボスケは2001年2月30日に、ユキコも2004年5月2日に死亡し、ホッキョクグマ舎は空家になってしまいました。


ゴーゴ君来園

 ユキコの死後、新たなホッキョクグマを導入すべく努力を重ねましたが、国内の動物園で繁殖に成功している動物園は少なく、外国の動物園も探しましたが適当な個体が見つかりませんでした。2年近くになった2006年3月15日、待望の雄のゴーゴが株式会社蓬莱さんのご協力を得て来園することになりました。ゴーゴは2004年12月3日、ロシアのペルミ動物園で生まれ、2歳前のやんちゃ盛りの子グマです。今後はペアとなる雌を探すことになるのですが、できるだけ早く雌を導入し、以前のようなホッキョクグマの赤ちゃんを見ることができる日を楽しみにしています。

(飼育課:榊原 安昭)