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動物園は今、大きく変わろうとしています。特に昨年から大きな関心を集め始めたのが北海道旭川市の旭山動物園です。動物の活発な行動をひきだす展示に大きな注目が向けられ、国内のいくつかの動物園でも行動展示に向けての施設整備が始まっています。一方、天王寺動物園の展示はこのような動きとは少し異なり、動物が生息する森林や草地、乾燥地、水辺などの自然環境を、動物とともに植物や水の流れなどを用いてその景観を再現し、動物をありのままでお見せしようというものです。この取り組みは生態的展示と呼ばれており、動物と生息環境との一体感や臨場感を醸しだすことを目的としています。 1915年開園以来の施設を1961年から9年間かけて大改造しました。それらの施設の老朽化が進むなかで、天王寺動物園はこの生態的展示手法を研究し、1995年に策定した将来計画「天王寺動物園ZOO21基本計画」において、生態的展示を取り入れた施設へ建て替えて行くこととしました。目指す所は、1.動物園全体に自然を再現し、自然を満喫できる貴重な緑のオアシスとして市民に憩いと潤いを提供する、2.動物の生息環境を再現した生態的展示手法により、自然環境の認識と教育効果を高める、3.絶滅に瀕する希少野生動物保護と繁殖研究を進め、飼育下での保護増殖を図るというもので、この計画の第一弾として1995年に開館した爬虫類生態館は高い評価を得ました。97年には日本で初めて水中を観察できるカバ舎を、翌年にはサイ舎、2000年にはアフリカサバンナ区草食動物ゾーンを公開しました。04年1月に公開したアジアの熱帯雨林ゾーン・ゾウ舎ではゾウの健康福祉にも留意しました。いずれの施設も現地での実際の生息環境調査を基に、設計を行いました。 他の都市と比べ、大阪市は本当に緑が少ないのですが、自然や環境のことを考えるにはそれらに触れ、体感することが必須です。北海道の大自然に囲まれた旭川市に比べ、自然の少ない大阪市ではまず環境を知るためのきっかけの場になることを第一と考えています。市民の方々にはゲートをくぐったその時から、都会の喧騒を忘れ、アフリカのサバンナやアジアの熱帯雨林の中に動物とともに浸りこんでいただきたいと思います。さらに動物を単に見せるだけではなく、野生動物の生活や人間との関わり合いも展示し、動物に対する知識とともに、動植物を通じて生態系への理解、自然への認識を深め、地球環境をも考えられる教育の場としての役割を担っていきたいと考えています。
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近年の市民社会の発展に伴い、動物園においてもボランティア活動をはじめとする様々な市民の関わり方が現れてきています。いろいろなグループがある中でも、市民ZOOネットワークは、特定の動物園ではなく、動物園全般を対象として活動しているのが特徴です。市民ZOOネットワークは、一般市民・動物園関係者・動物に関する専門家など様々な立場の人たちにより構成されており、動物園に対してはポジティブな評価によって優れた取り組みを応援しつつ、一般市民に対しては動物園の新たな利用の仕方についての情報提供を行っており、こういった活動を通じて、動物と動物園との関係をより豊かにしていくことを目指しています。 最近、動物園などでよく取り上げられる言葉に「環境エンリッチメント」(Environmental Enrichment)があります。これは、飼育動物の生活環境を豊か(rich)にして、動物本来の行動を引き出すための工夫のことです。市民ZOOネットワークでは、動物にとっても来園者にとっても好ましい環境エンリッチメントの取り組みを市民セクターの側から応援するため、2002年エンリッチメント大賞」を創設し、これまで3回にわたって表彰を行ってきました(注:なお、「エンリッチメント大賞」では、エンリッチメントの概念をさらに広げて、動物園に関わる全ての人たちを豊かにしてくれる取り組みも表彰対象としています)。自薦他薦を問わず優れた取り組みを応募していただき、それらの応募に対して、4名の有識者から成る審査委員会が審査を行い、特に評価の高い取り組みを表彰します。エンリッチメント大賞2004では以下の取り組みを表彰しました。シンポジウムでは、写真も交えながら、受賞した取り組みをご紹介したいと思います。 エンリッチメント大賞2004
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大阪市交通局に「利用者からの提案」を出したことがきっかけで、天王寺動物園から調査の依頼がありました。 できるかぎり多くの生の声を取り入れながら調査をした結果、入園者や市民が求める天王寺動物園の理想像は「みんなのオアシスになること」でした。都心にあり、利便性が高く、その上、緑いっぱいの空間であれば当然の結果だったのかもしれません。 アンケート記述からは、「親子三代で来ています」「父と来た思い出の場所、近くのお寺へお参りに来た帰りに必ず寄ります」と長い歴史や愛着が感じられました。また、「憩い」「ふれあい」を求める人も多く、「ふれあい」を分析すると、動物との直接的なふれあいのほかに、動物のことをもっと知りたい、飼育係さんの話を聞きたいなど、コミュニケーションをとりたいと思っていることがわかりました。小学生のあとをついて歩き、つぶやきを拾う調査もしましたが、動物に話しかけたり、鳴き声をいつまでもまねて歩くなどの行動からもそのことはうかがえました。調査に通っているうちにお気に入りの動物に会いに来る人々の存在も知りました。「シロクマおじさん」「カエルおじさん」は、時々絶妙な説明をしてくれました。また、「オランウータンおばさん」を、オランウータンは覚えているとのことでした。一方、生態系展示をしているサバンナエリアについての感想では、「動物園という環境の中で、動物たちが少しはストレスを感じないで暮らせるようになったのではないでしょうか」と気遣いも見せています。また、動物の施設と施設をつなぐ園路や、ベンチや芝生、食堂や売店の充実も求めています。 利用者が求める動物園の展示とは、動物施設はもとより植栽や風景も動物施設と調和していること、さらには、隣接する公園や美術館、日本庭園や古墳塚も一体として考えられること、そして、動物・植物・人が双方向に関われること、ということになります。市民や企業や行政の人々が、お互いの特質を活かしながら、一緒に考え話し合いを積み重ねることで、動物園は「楽しく美しい風景のある都市公園」となり、多くの市民のオアシスとなるのではないでしょうか。
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近代動物園の当初目的は、動物学の研究および教育でした。そのために、博物館や図書館が併設され、動物学協会によって運営されていました。ロンドン動物園などヨーロッパの近代動物園を見習って開設されたはずの日本の動物園でしたが、歴史的経緯の中でいつの間にか大切な「学」を見失ってしまいました。 最近の動物園は、レジャーランドのような単なる集客施設として見なされ、経済不況で人気に陰りが見られると、安易に合理化や閉鎖の対象となり始めています。そのような状況だからこそ、私たちはもう一度、動物園が科学的施設であることを再認識する必要があると思います。動物園展示は、科学的施設としての責務を果たす役割を担っています。見て楽しく面白いだけの展示ではなく、そこから何かを学ぶことのできる展示が求められるのです。 教育に役立つ動物園展示を創り上げるためには、参考となる科学的情報をできるだけ多く蓄積しておかなければなりません。その情報の多くは、動物園における日々の研究努力から得られるものです。動物園にとって研究が重要であることは、近代動物園が誕生した180年前も今も変わりはありません。
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