(社)日本動物園水族館協会長
東京都恩賜上野動物園長

小宮 輝之

 天王寺動物園開園90周年おめでとうございます。

キーウィ(天王寺)
●キーウィ(天王寺)

 私がはじめて天王寺動物園を訪れたのは、昭和42年ころだったと記憶しています。当時東京では見ることのできない動物としてベイサオリックスが群れで飼われているのに感激したことを思い出します。私自身動物園に就職してからは何度も天王寺動物園を訪れました。その都度、モウコガゼル、キーウィ、タスマニアデビルなど、初めて生きた実物にお目にかかることができました。また、有名なスマトラサイの剥製にも会わせていただき感慨深いものがありました。
 天王寺動物園は90周年を迎えましたが、大阪の動物園の歴史は19世紀に遡ると聞いています。上野動物園の前身が明治6年に皇居の近くに設けられた山下町博物館附属動物飼育場だったように、大阪でも明治8年に府立大阪博物場が設置され明治17年には博物場附属動物檻が設けられ、いわば府立の動物園がすでにスタートしていたそうです。

■上野開園は明治15年
 上野動物園が開園した明治15年、山下町博物館の動物飼育場から上野に動物の引っ越しをしました。実はその時に大阪博物場にも2頭の水牛が貸し出されています。19世紀にはすでに大阪と東京の間で動物交流が行われていたのです。
大正4年の天王寺動物園開園当時、動物たちの多くは動物檻に飼われていたもので、大阪府から大阪市に譲渡されたと記されています。天王寺動物園の設立、そして天王寺への動物の移動は、明治42年の大阪の大火で市の中心部に動物を置いておけなくなったのが一つのきっかけだったそうです。
 東京市がはじめて動物園をもつことになったのは大正13年のことです。前年の関東大震災が一つの引き金になり、皇太子(昭和天皇)ご成婚を記念する形で宮内省から東京市に上野動物園が下賜されました。大阪も東京も大災害がきっかけになり、市立の動物園が誕生したのです。
 ですから市立動物園としての上野動物園は天王寺動物園の9年後輩にあたります。実は明治36年の京都市、大正4年の大阪市、そして大正7年の名古屋市と日本の大都市の動物園開園は、東京市を多いに刺激しました。東京には国立の上野動物園はあるものの、市立動物園はなかったからです。そこで、東京では現在東京タワーのある芝公園に明治天皇在位50周年を記念した東京市立芝公園大動物園が計画されました。しかし、この計画は明治44年の明治天皇の崩御により実現しませんでした。

ゴリラの森(上野) アジアの熱帯雨林ゾーン(天王寺)
●ゴリラの森(上野) ●アジアの熱帯雨林ゾーン(天王寺)

 関東大震災の後、上野動物園の経営を担うことになった東京市は公園課長を1年にわたり欧米に派遣し、動物園事情を視察し、この知見をもとに上野動物園の大改造を行いました。この昭和初期の近代化で多くの動物舎が完成しました。そのなかの北極熊放飼場、オットセイ池(現アシカ池)、サル山は建設後70年たった今も、上野動物園の代表的な展示施設として機能しています。これらの施設はまさに天王寺動物園の開園に刺激され東京市が力を注いで建設したものなのです。
 大正から昭和の初期、天王寺動物園はスマトラサイ、アノア、リカオン、チンパンジー、キツネザルなど上野動物園にはいない多くの動物を収集しています。日本の東西を代表する動物園として両園は良い意味で競い合いながら発展してきました。しかし、戦時中は両園ともに猛獣処分という悲しい経験をし、多くの動物を失いました。そして戦後の両園は再び競うようにして、それこそ他の文化施設に先駆けて復興したのです。

アシカ池(上野) アシカ池(天王寺)
●アシカ池(上野) ●アシカ池(天王寺)

■「ズー2001計画」×「ZOO21計画」
 20世紀の終盤から今世紀にかけ天王寺動物園は「ZOO21計画」により大規模な整備を行ってきました。爬虫類生態館アイファー、カバ舎、サイ舎、アフリカサバンナ区草食動物ゾーンの完成は天王寺動物園の今までのイメージを一新するものでした。そして最近完成したアジアの熱帯雨林ゾーン・ゾウ舎は、ただゾウの生息地を自然景観として作り上げただけでなく、周辺の人々の生活と自然観を来園者に訴える日本初の施設です。天王寺動物園ではこうした日本の最先端を行くすばらしい生態展示を次々と完成させ、大都会の中とは思えない景観を作り出しています。上野動物園でも20世紀の最後の12年間、「ズー2001計画」に基づき「種の保存」と「環境教育」に重点を置いたハード・ソフト両面にわたる整備を行いました。両生爬虫類館ビバリウム、ゴリラの森、トラの森、ゾウ舎などが完成しました。
 創立以前の動き、開園の頃、市立動物園誕生のきっかけ、戦争中の悲しい出来事、戦後の復興、近年の新しい役割への対応など、こうして歴史を辿ると天王寺動物園と上野動物園は実に多くの点で共通するものがあります。動物園の果たす役割は、今後益々増え、重要視されることでしょう。これからも両園が協調をはかりながら、日本の動物園の発展に寄与したいと思います。
 今後とも天王寺動物園が日本の動物園の先頭に立って発展されることを祈念して、開園90周年のお祝いの言葉といたします。

(こみや てるゆき)