実習生の季節

寄生虫検査をする実習生

 毎年春と夏に、獣医師の卵である大学生が獣医学実習として当園に来ています。今年の春は6名、夏は11名の学生がやって来ました。以前に比べるとその数はかなり増えています。野生動物や動物園に興味を抱く学生が増えてきたのでしょう。
実習に来る学生で最も多い大学は、やはり近場にある大阪府立大学で全体の3割から5割を占めています。それ以外は全国に散らばるその他の獣医系の大学からの学生です。獣医系の大学は16大学あり、国公立が11大学(北海道大、帯広畜産大、岩手大、東京農工大、東京大、岐阜大、大阪府立大、鳥取大、山口大、宮崎大、鹿児島大)、私立が5大学(北里大、日本大、麻布大、日本獣医畜産大)あります。大阪府立大学以外の実習生は、実家が近畿圏にあり帰省を兼ねて実習に来ている場合が多いようですが、なかには友達の家や安いホテル、ウィークリーマンションに滞在して実習に来る学生もいます。
動物園で働く先輩獣医師として、実習生に学んでもらいたいことは、動物の治療などの臨床面だけでなく、「動物園とは何か?」「その動物園で獣医師がどんな仕事をしているのか?」ということです。

 実習生の一日を簡単に紹介しますと、朝一番に職員と一緒にラジオ体操した後、園内にある動物園専用の動物病院に直行します。そこで、まず治療や検査に必要な機器のスイッチを入れたり、継続して治療をしている動物の治療の準備をします。とはいっても、ほとんどの学生が臨床について大学で習っている最中か、まだ教えられてない状態でやって来るわけですから、最初の手ほどきは当園の獣医師が行います。その後、実習生は実際の治療を見学します。その際に、治療する側もされる側も怪我をしないための動物の保定方法、注射器の扱い方や注射の仕方など基本的な臨床に関する技術を学びます。タイミング良く健康診断の場面に遭遇した実習生は、麻酔やレントゲン撮影、血液検査なども経験しています。
 また、年2回この時期に行っている糞便中の寄生虫検査、いわゆる検便も経験してもらいます。当園では約300種類1,500点(頭)の動物を飼育展示していまが、これらの動物全部の検便を一時期にするのは大変なので、人海戦術となるわけです。寄生虫検査の経験を積むあるいは復習をする意味を含めて実習生の手を借りて検査しています。そこで寄生虫が発見された場合にはその駆虫薬の調合も彼らの実習です。もちろん、薬の選択は当園の獣医師が行いますが、彼らには薬の種類や作用についても併せて勉強してもらってます。この他、運悪く動物が死亡した場合には、その動物の解剖にも立ち会ってもらいます。動物園で飼育展示している動物が死んだ場合はすべて解剖しています。その死因を追求することで、その病気の予防法や治療法が見えてくるからです。
 治療動物が少ない日には、当園獣医師の解説付きで園内や各動物舎を案内したり、彼らに園内を自由に散策してもらっています。天王寺動物園では動物園改造計画「ZOO21計画」をもとに、動物舎の建て替えを行っています。1995年の爬虫類生態館アイファーを皮切りに、カバ舎、サイ舎、サバンナ区草食動物ゾーンがオープンしました。そして、今年1月にはアジアの熱帯雨林ゾウ舎がオープンしました。「ZOO21計画」で建て替えた新しい動物舎では生態学的展示手法を取り入れています。生態学的展示とは、動物の生息している環境をできるだけ再現した場所で飼育展示をする試みで、欧米諸国の動物園では十数年前から取り入れられた手法です。来園者の方々に生息地を再現した場所で生き生きとした動物の姿を見てもらおういうのが当園の目的です。
 実習生にも、これらの新しい動物舎と分類学的展示手法を用いた古いタイプの動物舎(分類学展示手法とは、近い種類の動物たちを並べて展示し、それぞれの違いを理解してもらう手法)を見てもらい、そこで飼育展示している種々の動物とともに天王寺動物園が目指している方向を理解してもらうのが狙いです。

 実習期間はだいたい2週間と短いですが、実習生にはこの間にできるだけ多くことの体験し、大学で学ぶ家畜やコンパニオンアニマルだけでなく野生動物や動物園動物にも興味を持ってもらいたいと思っています。そして、最後に幅広い視野を持った次の時代を担う獣医師になってほしいことを彼らに告げて終了としています。

(飼育課:竹田 正人)