「そんな素人目でこの先、飼育係が務まるかーっ!」
と、先輩から一喝されたのは、念願の飼育係になって一カ月ほど経った実習の時でした。動物関係の仕事に携わったこともなく、犬、鳥などありふれたペットを飼った程度の私は、その頃、仕事というよりも、一人の客という感覚で動物を見ていただけで、とても後々の仕事に反映させることが出来るような見方ではなかったのです。また、別の先輩からは「『作業』でなく『仕事』をしろ。」と、頻繁に言われました。つまり、単に餌やりや掃除だけなら「作業」、残餌、季節、産卵や交尾時期などを踏まえて餌を考えたり、糞、仕草、体の異変の早期発見などから動物をベストの状態で管理するのが「仕事」となるわけです。なかなか一筋縄ではいかないことです。
 意気揚々と動物園に入り、まず第一歩となるはずが見事に出鼻をくじかれた格好となりました。しかし、そんな指摘があって改めて考えてみると先輩方の言っていることは、的を得ていて自分の中では動物との接し方を考え直すいい機会になったと今ではとても感謝しています。
 そのような助言などを頂いて、真の意味での第一歩を踏み出すためにいま、行っているのは、飼育している動物たちに名前を付け、収容した後など、できるだけ名前を呼んで自分が飼育係であることを認めてもらえるよう努力をすることです。飼育係とは動物がいて初めて成り立つものですし、自分がそうだと自負しても動物が認めてくれないと意味がないと思うからです。
 動物の前で名前を呼びながら、どこか変わったところはないか見ることが出来るようになれればと思います。その意味では直接担当している動物病院はよい経験になります。ここへ来る動物の多くは不健康な上に神経質になっているわけですから、世話をしていて健康体に戻っていく過程を見守っていけるのは今後のために非常に有意義だと思っています。
 私の本来の担当場所は、動物病院と調理場での飼料の分配ですが、代番でネコ舎にも入っています。当初は動物たちに近づくだけで見知らぬ奴が来たということが分かるらしく、動きがぴたっと止まり、視線は私をじっとにらみつけるような感じでした。しかし今では多少慣れてくれたような気がしてますが、果たして当の動物はどう感じているのか知る由もありません。ただ私一人で収容する時でも、以前は全く寝室に入ってくれなかったのですが、時間がかかっても入ってくれるようになったのには小さな自己満足を感じています。
 また、調理場での仕事は動物ごとに餌を配分することなのですが、ここでもただ餌を用意するだけでなく、品種や大きさを加味して割り当てられるように努力をしています。
 本来の生活の場を離れ、飼育される動物たちのために動物園という与えられた環境で寿命を全うできるようにできるだけのことはしてやりたい、そして動物園に来るお客さんにはテレビや本ではなく、目の前の元気な動物を見て少しでも関心を持って満足して帰ってもらえるよう、動物と来園者の架け橋になれるよう、頑張っていきたいと思っています。

 

(飼育課:市成 崇)

 


 皆さんはじめまして、私は今年の4月に転勤で天王寺動物園にやってきました。9年ぶりの新人獣医師で「西岡 真」と申します。大阪市に就職して11年目になります。以前の職場は、就職して7年間は南港にある食肉衛生検査所で、食肉の安全確保のためと畜検査をしていました。その後3年間は、動物管理センターで狂犬病予防業務や動物愛護業務をしていました。
 子供の時から動物が好きで、地元の動物園や水族館によく遊びに行っていました。小さい頃は、ただいろんな動物が見れたら喜んでいましたが、中学生ぐらいになると、それぞれの動物たちをじっくり観察することが面白くなりました。例えば、キリンが草を食べている所を見て、キリンの舌の長さにびっくりしたり、ゾウの鼻がすごく器用なことに感心したり、アシカやイルカがショー以外でもいろんな物を遊び道具にして遊んでいるのを見て、遊ぶのが好きなんだなぁと感心したり。
動物たちの行動を見ていると、本当に飽きることが無く何時間でも見てしまいます。
そんな動物好きから、獣医師になろうと思い一年浪人して大阪府立大学に入学しました。府大には馬術部があり、すぐに入部して、6年間馬づくしの生活をし、大阪市に就職しました。
就職してからは、先に述べた経過をたどり11年目にして動物園の獣医師になることができました。
 最近は動物園での動物の展示のあり方が変わってきています。「生態的展示」や「環境エンリッチメント」など、動物が本来住んでいる環境をできるだけ再現したり、自然環境より狭い飼育環境の中で、いかに動物にストレスをかけずに身体的にも精神的にも健康にすごしてもらえるか考えて展示しています。
  天王寺動物園でも、「ZOO21計画」でカバ舎の水中透視プール、ティラピアやエジプトガン等との同居展示、サバンナ草食ゾーンでのキリン、エランド、シマウマ、トムソンガゼル、ダチョウ、アフリカハゲコウ、ホロホロチョウの同居展示でそれぞれの動物の係わり合いも見ていただけるようになっています。また、アジアの熱帯雨林では、アジアゾウの生息環境や現地でのゾウと人との関わりのなかでの問題点等も展示のなかでふれています。また、サイ舎では現地でのサイの密猟の問題も展示のなかで取り上げています。
 このような動物園における展示環境の変化の流れの中で、私たち獣医師に求められていることは、単に動物の身体的な健康管理だけでなく、精神的に豊かな環境をどれだけ創り出す事ができるか、また、お客様に世界中の動物たちの状況「密猟・森林破壊・野生動物の密輸等」を知っていただき、人と動物との係わり合いから世界の自然環境を考えてもらえるかだと思います。
 動物園がただ見て楽しむだけのの場所から、赤ちゃんからお年寄りの方までそれぞれの年齢や状況に応じて、「見て・感じて・考える」そしてみんなが「憩える・楽しめる」場所になるように頑張りたいと思っていますので、よろしくお願いします。とともに皆さん天王寺動物園に足を運んでくださいね。

(飼育課:西岡 真)