カヤネズミとの出会い

全国カヤネズミ・
ネットワーク代表
畠 佐代子さん

 私が初めて野生のカヤネズミに出会ったのは、今から5年前の初夏の夕暮れ時のことです。当時、私は大学院の修士課程の1年目で、カヤネズミの研究を始めたばかりでした。
 カヤネズミは人間の親指大の日本一小さいネズミで、河川敷や休耕田に生えているオギやススキの葉を編んで、野球のボールよりも一回り大きい球形の巣を作ります。しかし、河川改修や公園・ゴルフ場の建設などの影響で生息地が年々減り続けているため、調査地を探すのも一苦労です。カヤネズミどころか巣すら見たことが無かった私にとって、それは雲をつかむような作業でしたが、ともかく少ない情報を手がかりに、カヤネズミのぬいぐるみをお守り代わりにディパックに入れ、ジーパンを草の汁で緑色にしながら、暇さえあれば巣を探し歩いていました。
 その日もいつものように調査に出かけ、休耕田のチガヤの草むらで巣を探していました。草むらをかき分けつつ歩いていると、膝よりも少し高い位置で「カサカサッ…パサッ」という音が聞こえました。
 「カヤネズミだ!」と、直感しました。とっさに動きを止め、音を立てないようにじっと耳を澄ませると、音が少し移動しました。音が止むと、その方向にそろそろと近づき、息を潜め、また音がするのを待つ…。これを辛抱強く繰り返すこと数分、やっと草の合間にオレンジ色の姿がちらっと見えました。慌ててカメラを構えましたが、ちょろちょろ動き回ってなかなか焦点が合いません。結局、現像した写真には、ピンぼけのチガヤが写っていただけでした。
 その後、再度訪れた時には、残念なことに巣があった場所は草刈りされてしまい、巣も、カヤネズミも確認できませんでした。ほんの一瞬の邂逅でしたが、初めてカヤネズミに会った感動は、今でも鮮やかに思い出します。機会があれば、ぜひ彼らに会いに行ってみてください。秋晴れの休日、草むらのカヤネズミの世界におじゃまするのも、なかなか楽しい経験ですよ。

(はた かよこ)