今年の干支に因んで羊のことを考えてみました。
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天王寺動物園 園長 中川 哲男


さて、天王寺動物園の羊

 についてふれてみますが、
 大正4年〔1915年〕の天王寺動物園開園創設時には羊は飼育展示されていませんでした。大正7年〔1918年〕の資料ではメンヨウの文字が見られ、昭和13年〔1938年〕には蒙古羊が、昭和14年〔1939年〕にはコリデールが、昭和20年〔1945年〕にはシュロップシャーが、昭和58年〔1983年〕にはサクソン・エクストラ・ファイン・メリノーが記録に残っています。

贈られたサクソン・エキストラ・
ファイン・メリノー種

エピソード1

 昭和58年のサクソン・エクストラ・ファイン・メリノーについてエピソードをご紹介しましょう。大阪市に本社のある繊維商社のF社がオーストラリア・タスマニアのローンセストン市で買い付ける原毛を毎年、最高価格で落札し有名となっていました。そこでローンセストン市ではその功績を称えるため国際親善を兼ね、世界最高級の羊毛を生産する「サクソン・エクストラ・ファイン・メリノー種」を大阪の動物園に贈ろうということになり、2頭が寄贈されました。華々しく贈呈のセレモニーが行われ「世界で最高級のウールを生産する羊だ」と胸をときめかし、最高級の羊を飼育展示できるということで自慢に思っていたのですが・・・残念ながらこの羊、繁殖能力がないということが分かりました。なぜなら最高級のウールを持つ羊が国外に出て盛んに繁殖したのでは将来、オーストラリアの羊毛貿易に大きな影響を与える結果になりかねないということです。去勢した羊を見て、子孫を作ることなく、あと15年ほどすると天寿を全うするのかと思うとやるせなくなりました。毎年6月1日の衣替えの日に行われる「羊の毛刈り」でもコリデールの雑種と一緒に刈り取られた最高級の羊毛はこれらの羊の毛と一緒にされ、最高級のスーツに変わることなく原毛問屋に引き取られていました。

天王寺動物園のヒツジの親子

 最後に羊の名誉のため書き添えますが、家畜化の歴史は犬より遅れますが、牛や馬より古く8,000年から9,000年前に西アジアでアジアムフロンが馴化され、改良交配されて、今の家畜の羊の原型が出来上がったといわれています。

[参考文献]
家畜の文化史「緬羊物語」松丸志摩三 昭和23年
「天王寺動物園70年史」天王寺動物園 昭和60年
「動物2600年史」大阪市立動物園 昭和16年
「動物大百科10[家畜]」平凡社
「世界の動物・分類と飼育7偶蹄目III」東京動物園協会
「世界家畜図鑑」正田陽一 講談社
「動物文化史事典」原書房
「万有百科大事典20[動物]」 小学館

 

 

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