言葉と遊び

大阪芸術大学名誉教授 森  淳

アフリカで物質文化の調査をするとき、私はよく子どもたちと言葉遊びを通じて「物」の名前を知る事から始めます。昨年2ヵ月ばかり滞在したドゴンの人たちのテリ村では、新しい方法として、日本語を知りたがる彼らに合わせて「私の名前は○○です」「貴方の名前は○○です」という言葉から始めてみました。
 みんな面白がって自分の名前やまた友達の名前を使って楽しそうでした。その時ふと辺りを見まわすと、ネレの木を登って行くカメレオンの姿がありました。聞いてみるとカメレオンはドゴンの言葉でアンスメレという事でした。そこで「私はアンスメレです」と言うと、みんな大笑いでした。そして「貴方はアンスメレです」などになり、いろいろな生き物の名前が出てきました。
 サソリはミミタム、コウモリはキキジ、ロバがジョヌ、つぎつぎに名前が出てきます。その度に「貴方はミミタムです」と言えば相手は「貴方はジョヌです」とやり取りが始まりました。
 一番うけたのはジョヌのロバでした。私がそう言われる度にロバの啼き真似をするものですから、みんな大騒ぎです。鶏のコゴなどだといいのですが、サソリやカメレオンなどになるとどう啼くのかも分かりません、そこで勝手にその生き物のイメージに合わせて啼き声を考えます。みんな啼き声を考えながら声に出すと、そうではない、こうだろうなど皆で想像の世界で啼きあうのです。それがまた楽しくて、いろんな動物や虫の名前が出てきました。
 夜が更けるのも忘れて楽しむ中で、随分生き物の名前がわかってきました。その夜は月の無い夜で辺りは真っ暗です。ランプの光だけが、明るい世界でした。
 

(もり じゅん)