サミーからの手紙

〜親愛なる友人と家族へ

チェスター動物園 獣医師 ステフ・サンダースン

 私たちは、ここチェスター動物園で、サミーとともに過ごせることを、たいへんうれしく思っています。彼はすばらしい性格の持ち主で、動物園のスタッフや入園客の間で、すぐに人気者になりました。サミーは友達や家族から離されて、とってもオドオドしていましたが、今では、とても落ち着いてきています。
サミーが、ここチェスター動物園での生活がどういうものなのかみなさんに話したがっていましたので、私が口述筆記してあげました。

 僕が、ここイギリスにやって来て2ヵ月になりました。そこで、ここでの生活がどんなものなのか、皆さんに少しでもお知らせしたいと思って、ステフに頼んで手紙を書いてもらうことにしました。
 もう今となっては、こちらに来るまでの旅程を思い出すことなど、なかなか難しくなっていますが、これだけはよく覚えています。いつものように朝食を食べようと、1ヵ月前から僕の部屋の出入り口に置かれていた木の箱の中へ入ったら、突然、僕の後ろでその扉が閉まってしまいました。僕はすごくびっくりして、とにかくそこから出たかった。でも、その時、僕の後ろ足に何かが突き刺さった。それからとても眠くなってきたのは思い出せるんやけど、その後のことは空白で、何も思い出せません。

 1959年から、20頭のクロサイが、このチェスター動物園で生活してきたそうです。
 そして今、僕は、他の5頭のクロサイとともに暮らしています。カタカタは11歳になるオスで、ロージーとパンガニはオトナのメスです。3頭は、園路を挟んだ向かいにあるクロサイ舎で暮らしています。親しみやすそうに見えるけど、知り合いになれる程にはまだ十分に近づいていません。
 でも、隣で暮らしている女の子たちについてぜひお知らせしたいと思います。彼女らはとてもグーです!名前はマニヤラ(3歳)とキタニ(4歳)で、2頭とも、ここ生まれです。
 2頭はとても仲良しで、離すことができないそうです。眠るのも一緒、食べるのも一緒、運動場を走り回るのが大好きみたいです。僕は一週間前まで、検疫されていたので、まだ彼女らと話す機会がほとんど持ててないけど、僕の部屋の扉の向こう側で、彼女たちの音を聞くことができるし、僕の運動場のフェンス越しに見ることもできます。僕は、彼女らのことをもっと知りたくて、ウズウズしています。僕の飼育担当のオジサンは、「あの子たちが、オマエのことを好きになってくれたら、ずっと一緒にいれるよ」やて。僕の幸運をみんな、祈っててねー!

ステフが、ボクの代わりに書いてくれたメール。ボクの近況写真も、メールで送ってもらったんだ!
イギリス・チェスター動物園に、建設中のrhino house(サイ舎)。
サミーと、新しい家族のための新居です。

 僕の飼育担当のオジサンもいい人たちです。僕も最初のうちは、オジサンらのこと、ちょっと怖かった。天王寺の飼育係のお兄さんと全然違う言葉をしゃべるけど、みんな、すごい親切です。ニンジンやアカシヤのペレット、パン、ポニー用フード、それにたくさんの枝をくれます。その枝は、ナラ、ヤナギ、ポプラの木から取ってくるんやて。日本で、この木を食べていたかどうか覚えていないけど、とっても美味です。皆に一度、味わってもらいたいもんです。時々、僕の大好物のバナナもくれます。おいしいよー。

 さて、ほかに何を話そうかな。気温やけど、こちらは日本よりもかなり涼しいです。暖かい日は、25℃まで上がるけど、たいていはそこまでいかなくて、ずっと涼しいし、湿気もありません。僕の運動場は青々とした緑でいっぱい。初めて外に出た時、草の上を歩くのがちょっと不安だったので、運動場にほんの少しある、草が生えていない所にずっといたけど、今は、もう大丈夫って分かっているから、平気です。
 チェスター動物園は天王寺動物園よりずっと静かです。車の音は全然聞こえません。聞こえるのは鳥の鳴き声だけ。雑音は入園客がたてる音だけ。今、僕がいるところから動物舎2つ分下がった所に、僕とお隣の彼女たちのために、新しいクロサイ舎が建設されています(★)。そのサイ舎は、巨大なアフリカ風の小屋みたいで、3つの屋内放飼場があります。そのうちの一つは、母親と赤ちゃんのために設計されてるんやて! きっとみんなは、僕がマニヤラかキタニと結婚して、子供をつくって欲しいんやろなぁ。けど、まだ父親になりたいという気持ちはそんなにありません。まあ、もうちょっとオトナになったら、気分も違ってくるやろなぁ、って飼育員のオジサンに言われました。
 どうですか、今のところ、こんなもんです。みんな元気にしてる?お母さんもお父さんもサリーも、みんな元気にしててね。もし誰か、イギリスに来ることがあったら、僕に会いに来てほしいな。待ってるでぇ!そしたら元気でね!

サミーより

(翻訳:飼育課 森本委利)

 

 

 チェスター動物園
 イギリス中部のチェサイヤー州チェスター市にあり、1934年に創立された歴史ある動物園。45haの広大な敷地内には哺乳類(63種708点)、鳥類(205種933点)、爬虫類(55種245種)を飼育しており、アジアゾウの繁殖で有名です。
クロサイは、現在オス2頭(サミー、カタカタ)、メス4頭(ロージー、パンガニ、キタニ、マニヤラ)を飼育しています。